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2007.07.21 (土)

「 年金問題処理という大義名分の下で公然と進む国民総背番号制度に異議 」

『週刊ダイヤモンド』     2007年7月21日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 699

誰の支払い記録なのかが確認出来ない年金保険料5,000万余件について、安倍晋三首相は当初、1年間で精査すると言明、さらに前倒しして、来年3月までには照合を終えるとしている。

そのあいだに“疑わしきは救済する”方針、たとえば領収証のような決定的な証拠がなくとも、納付したとの主張が信ずるに足る場合は年金を支給するとの方針を打ち出し、そのための各種委員会もすでに活動を開始した。

いまや年金は、これら諸策がいかに実行に移されていくかが問題だ。つまり、これから先は技術論なのだ。

にもかかわらず、5,000万件問題や事務所費問題が参議院議員選挙の唯一最大の焦点と見なされるのは不毛なことだ。直接、政権交代につながらない“良識の府”の参議院選挙であれば、大所高所から日本の直面する基本的問題を論じ、政策を競うべきだ。

年金問題についていえば、今、非常に奇妙な動きがある。関係者らに取材すると、奇妙だと感ずる事柄は、じつは“自明の既定路線”であり、すでに走り出していることがわかる。それは国民総背番号制の確立である。

社会保険庁のでたらめさが生んだ5,000万余件の記録を照合するソフトを、NTTグループが開発中だ。ソフト開発には約3ヵ月かかるといわれるが、いったん出来上がれば、照合は比較的短時間で可能だ。それが、安倍首相も言及した“前倒し”の意味である。

その新ソフトは、これまで分散していたコンピュータ上の記録を一本化し、その人物の情報も精査することになる。その際、最も重要なのがその人物の年齢(生年月日)と生死の情報である。

これらを最も正確に記録しているのが、住民基本台帳ネットワークだ。新ソフトが情報の照合を住基ネットで行うことはある意味、合理的で自然である。そして、いまや国民も、年金情報精査のために住基ネットが活用されることには反対しないであろう。むしろ、積極的に活用すべきだと言うかもしれない。そうして、国民の誰もが、消えた年金をどのように取り戻そうかと思案するあいだに、静かに、しかし公然と、国民総背番号制度が着々とつくられていきつつあるのだ。

年金情報と住基ネットの合体のあとに生まれるのは、住基ネットと納税情報の合体であろう。たとえ財務省が、総務省の所管する背番号制度との合体を是としないとしても、住基ネットと同じようなシステムを別につくるには莫大な予算が必要だ。そんな不合理なことはよもや財務省もしないであろう。他方、年金情報と納税情報の連動、合体は合理的であり、その意味からも、年金情報と合体した住基ネットに、さらに納税情報が結び付いていく可能性は高い。

ここまでくれば、国民総背番号制度の完成である。社保庁の所業が国民の怒りを買い、国民を惑わせているあいだに、官僚たちは、長年夢見た国民総背番号制にいとも容易にたどり着く。社保庁の役人の不始末を、官僚たちの新たな権限の拡大へと、彼らは巧みにつなげていきつつある。笑いを噛み殺しているであろう彼らの姿が目に浮かぶのは、私だけではあるまい。

私は、国家が国民の情報を保有するのは必要だと考えている。しかし、一つの番号でその人のおよそすべての情報が引き出せる、いわゆる総背番号制には問題ありと考える。年金が社保庁の役人のものでなく、国民のものであるように、国民一人ひとりの情報も、基本的に個々人のものだ。だからこそ、国民の各種情報の取り扱いに、国家は慎重でなければならない。情報管理の甘い国としては、国民情報を一元化してコンピュータに収めることになおさら慎重でなければならない。にもかかわらず、年金保険制度の充実という大義名分の下で、静かに、しかし公然と国民総背番号制度への道が開かれつつあることに、異議を唱えるものだ。

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「 年金問題処理という大義名分の下で公然と進む国民総背番号制度に異議 」

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