櫻井よしこ オフィシャルサイト https://yoshiko-sakurai.jp/

櫻井よしこ オフィシャルサイト

  • 日本語
  • English
  • 小
  • 中
  • 大
  • Facebook
  • Twitter
  • ホーム
  • お知らせ
  • コラム
  • 著作一覧
  • プロフィール
  • お問い合わせ

コラム

  • 「コラム」の一覧を見る
2006.12.28 (木)

「 外務官僚よ、国益を蝕むのか 」

『週刊新潮』 '06年12月28日号
日本ルネッサンス 第245回

 

 

日本外交はなぜ、墓穴を掘って、国益を損なうのか。

今回の日本外交の信じ難い迷走は、12月13日の麻生太郎外相の発言に始まった。衆院外務委員会で北方領土問題について「択捉島の25%を残りの3島(国後、歯舞、色丹)にくっつけると、50、50の比率になる」と述べたのだ。

外相はまた、「2島だ、4島だというと勝ち負けみたいな話になり、なかなか合意が得られない」「現実問題を踏まえた上で双方どうするかを腹に含んで交渉にあたらねばならない」とも述べた。

一連の発言は北方領土を日露間で面積で二分する考えを示したと解釈され、4島全てを回復するとしてきた日本国の年来の外交政策を大幅に後退させた印象を内外に与えた。

外相発言の翌日、ロシアのクナーゼ元外務次官は「問題の本質を知らない人物の発言」と述べ、ロシア上院のマルゲロフ外交委員長も「(北方領土をロシア領とする)現在の世界地図は第二次大戦の結果を基礎としており、これを見直すことはできない」との声明を発表した。

ロシア側の発言は冷笑に等しく、日本外交は完全な敗北の形に落ち込んでいる。一体なぜ、この種の発言が飛び出したのか。麻生氏自らの考えか、外務官僚の具申か。私には後者であると思えてならないが、そう考える理由のひとつが、「2島返還は日本が負けで、4島返還ではロシアが負けということではなく、双方が納得することが大事だ」という今年9月の麻生発言である。

かつてこれと似た発言で日本が惨めな敗北を喫したことがある。97年7月、時の首相橋本龍太郎氏が経済同友会で演説したときだ。丹波實外務審議官(当時)は、首相演説の前日、パノフ駐日ロシア大使に、以下のように告げていた。

「我々は重要なメッセージを送るつもりがあると、橋本さんの演説で。従って演説の次の日に、間違いなく、エリツィン大統領用の、クレムリンの机の上に、この演説のロシア語版が載っているようにしてほしいということで、事前にこの演説の内容を教え、且つ今のポイントも含めて重要なポイントを皆教えて、『宜しく頼むよ』と言った。彼はその通りにしてくれた。で、次の日に、クレムリンにすでにこの演説はあった」(NHK衛星第一「日本ロシア領土交渉の道」05年11月17日)。

橋本首相はユーラシア外交を打ち出し、「北方領土問題の解決は、どちらか一方が勝者となり、どちらか一方が敗者となるという形で解決するものではない」と語ったのだ。

「勝者も敗者もない外交」はソ連の領土簒奪に目をつぶり、足して二で割る主張なき外交だ。これを丹波氏はじめ、東郷和彦、佐藤優両氏、外務省のキャリア、ノンキャリア組の官僚たちが一致して推し進めた。それは皮肉にもクナーゼ元外務次官が指摘したように、真の意味で「問題の本質を知らない」外交だった。


ロシアが認めた領土問題

現在とは対照的に、少なくとも93年までの外務省は極めて真っ当な北方領土外交を展開した。基本は一貫した4島返還要求である。

問題の本質を突いた外交は正しい歴史の知識から始まる。旧ソ連は日ソ中立条約を一方的に破棄し、ポツダム宣言を無視して60万人以上の日本兵をシベリアに強制抑留した。彼らの北方4島上陸は45年8月28日、占領し終えたのは9月5日だ。日本はすでに東京湾のミズーリ号上で終戦文書への署名を終えていた。

徹頭徹尾、国際法に違反して4島を奪ったソ連だったが、国際情勢の変化に直面して日本に接近した。深まる冷戦下の56年、ソ連は日本取り込みのために国交樹立を持ちかけ、鳩山一郎首相が訪ソ、平和条約締結後の2島返還が明記された。

次の接近は73年である。71年にニクソン米大統領の対中秘密外交が明らかにされ、翌年、ニクソン訪中が実現した。米中接近を見てソ連は日本に接近、田中角栄首相が訪ソし、北方領土問題は2島ではなく4島であることをソ連側は認めた。

次の接近はソ連が崩壊した90年代だ。93年10月、日本を訪れたエリツィン大統領は、北方4島問題は択捉、国後、色丹、歯舞だと固有名詞で特定、4島の帰属問題を解決後、平和条約を結ぶことを確認した。

外務省のロシアスクールは、このあたりまではまことに筋の通った外交を展開したのだ。これを根本から揺るがしたのが先述の橋本外交だ。経済同友会での首相演説にロシア側は素早く反応し、97年11月、クラスノヤルスクで、翌年4月、静岡県川奈で首脳会談が行われた。


50年を経ても返らず

驚くべきことに、川奈会談で日本側は、北方4島の北端の択捉島とウルップ島の間に国境線を引いてくれれば、領土引き渡しは先でよいと提案した。施政権の返還を伴わない領土権の主張といういじけた考えを、橋本首相に具申したのは丹波、東郷両氏ら、外務官僚であろう。北方領土問題を生み出したソ連の不法と蛮行に目をつぶり、日本国の立場と主張をこれほどまでに蔑ろにした誇りなき日本の外務官僚は、この際、ロシアの外務官僚らの決意に学ぶことだ。

当時エリツィン大統領は施政権を求めないという根源的譲歩をした日本案に驚きながらも、素気なく「興味ある提案」と述べたきりだった。この抑制された反応こそ、ロシアの官僚たちの働きだった。日本担当のチフビンスキー、カピッツァ両氏らの外交記録には、「日本との妥協に傾く政治家たちに、外交官が旧来の立場を守れと主張したことが誇らしげにでてくる」(下斗米伸夫『朝日新聞』01年2月17日朝刊)。日本外務省は心して、対ロ外交の失敗を振りかえり、反省すべきだ。

元ソ連課長で在ソ公使を務めた新井弘一氏は、外交において不要な摩擦は作ってはならぬが、正当な権利はあくまで主張することの重要性を指摘する。外交は首尾一貫していなければならず、無責任な妥協策により積年の努力が水泡に帰すと警告する。

日本国の国益を担う外交官には、失敗は許されない。日本外交が橋本外交で失敗したのは、日本の正当なる権利を主張せず、足して二で割る方式を採ったからだ。この歴史を振りかえれば、今回の麻生発言を支える小手先の戦術ではいかなる意味でも解決を得られないのは明らかだ。筋の通らない外交では、50年待っても、4島は返ってこないのだ。

麻生発言の余波のなかで、唯一、希望が持てたのは高市早苗北方対策担当大臣の発言だった。氏は16日、「『4島の帰属を確認したうえでの平和条約締結』という外交方針に変わりはない。これを崩すと、今まで根拠にしてきた国際法が根拠にならなくなる」「政府内でもぶれた発言が出ないようにする必要がある」と釘を刺した。外務省は高市氏の姿勢をこそ心に刻むことだ。

Tweet Check
トラックバックURL:

トラックバック: 20件

  1. 対米依存で専守非核の日本4

    ●防衛政策を規定した「国防の基本方針」

     昭和32年(1957)5月20日、岸内閣の時代に、国防会議と閣議で「国防の基本方針」が決定された。この基本方…

    トラックバック by ほそかわ・かずひこの BLOG — 2006年12月30日  11:05

  2. 戦歿者追悼の重要性を強調された天皇陛下

     天皇陛下はお誕生日にあたり、記者の質問に対してご回答をお寄せになり、改めて戦歿者追悼の重要性を強調されています。特に「戦闘に携わった人々も,戦闘に携わら…

    トラックバック by 草莽崛起 ーPRIDE OF JAPAN — 2006年12月30日  11:56

  3. 戦歿者追悼の重要性を強調された天皇陛下

     天皇陛下はお誕生日にあたり、記者の質問に対してご回答をお寄せになり、改めて戦歿者追悼の重要性を強調されています。特に「戦闘に携わった人々も,戦闘に携わら…

    トラックバック by 草莽崛起 ーPRIDE OF JAPAN — 2006年12月30日  11:56

  4. 麻生外相の勇み足

    「択捉島の25%を残りの3島(国後島・歯舞諸島・色丹島)にくっつけると50、50の比率になる」
    (麻生外相)
     ロシアは「力治国家」で譲歩は弱みと見る国家…

    トラックバック by クルトの葉隠な日々~iza営業所~ — 2006年12月30日  15:57

  5. 麻生さん、貢ぐのは愛人だけにしとき

    巷では人気があるみたいだけど、私はもう見切った。昔はちょっといいかなと思ってたけど。ヘタレじゃん。
    櫻井よしこさんが指摘しているのでこちらを。
    「 外務官…

    トラックバック by ド素人が行く!! — 2006年12月30日  21:38

  6. 危ぶまれる「子どもの権利」条例

    この度、首都圏地方議員発行の「地域から誇りある国づくりを−地方議員の闘い」が出版されました。

    本単行本には平沼赳夫氏(元経済産業大臣)・櫻井よしこ氏…

    トラックバック by 草莽崛起 ーPRIDE OF JAPAN — 2006年12月31日  09:58

  7. 危ぶまれる「子どもの権利」条例

    この度、首都圏地方議員発行の「地域から誇りある国づくりを竏鋳n方議員の闘い」が出版されました。

    本単行本には平沼赳夫氏(元経済産業大臣)・櫻井よしこ氏…

    トラックバック by 草莽崛起 ーPRIDE OF JAPAN — 2006年12月31日  09:58

  8. 謹賀新年

     明けましておめでとうございます。
     今年もよろしくお願いします。

     日本は、根本的に建て直しをしなければならないところにきています。昨年発足した安…

    トラックバック by ほそかわ・かずひこの BLOG — 2007年01月01日  09:23

  9. 北朝鮮による日本人拉致事件!実行犯が住む多摩地域。

    武蔵村山市議会議員  天目石要三郎

    プロフィールの原稿
    昭和43年5月6日生まれ 38歳
    千葉東高校、学習院大学法学部政治学科卒業
    自治会費横…

    トラックバック by 草莽崛起 ーPRIDE OF JAPAN — 2007年01月03日  10:08

  10. 北朝鮮による日本人拉致事件!実行犯が住む多摩地域。

    武蔵村山市議会議員  天目石要三郎

    プロフィールの原稿
    昭和43年5月6日生まれ 38歳
    千葉東高校、学習院大学法学部政治学科卒業
    自治会費横…

    トラックバック by 草莽崛起 ーPRIDE OF JAPAN — 2007年01月03日  10:08

  11. 「改憲内閣」を標榜した安倍首相の年頭会見

    〜戦後最大の政治決戦としての参院選〜

    安倍首相は4日の年頭会見で、憲法改正について「私の内閣で憲法改正を目指したいというのは当然のこと、参院選で…

    トラックバック by 草莽崛起 ーPRIDE OF JAPAN — 2007年01月06日  09:21

  12. 「改憲内閣」を標榜した安倍首相の年頭会見

    縲恊甯纃ナ大の政治決戦としての参院選縲鰀

    安倍首相は4日の年頭会見で、憲法改正について「私の内閣で憲法改正を目指したいというのは当然のこと、参院選で…

    トラックバック by 草莽崛起 ーPRIDE OF JAPAN — 2007年01月06日  09:21

  13. 日本人の誇りを取り戻せ 

    中央区議会議員 二瓶文隆氏の原稿を掲載いたします。

    私が、国士舘大学大学院で恩師から受けた最初の講義は「君たちは、日露戦争に日本は勝ったと思うか負け…

    トラックバック by 草莽崛起 ーPRIDE OF JAPAN — 2007年01月11日  08:35

  14. 日本人の誇りを取り戻せ 

    中央区議会議員 二瓶文隆氏の原稿を掲載いたします。

    私が、国士舘大学大学院で恩師から受けた最初の講義は「君たちは、日露戦争に日本は勝ったと思うか負け…

    トラックバック by 草莽崛起 ーPRIDE OF JAPAN — 2007年01月11日  08:35

  15. 今月、部落解放同盟福岡県連と福岡県教育委員会との間で要求交渉が行われます

     よく読んでいる「日本好きです、大好き早稲田日記」というブログに平沼赳夫議員が政府に提出された質問趣意書とその回答が掲載されています。
     その2で教育行…

    トラックバック by なめ猫♪ — 2007年01月11日  20:32

  16. 偶然ではない防衛省のスタートとタンカー・原潜衝突事故

     去る9日、いよいよ防衛庁が防衛省に衣替えした。いや、衣替えしたという言葉は適当ではない。文字通り、防衛省は、内閣府の外局(防衛庁)から、他省と並ぶ大臣を…

    トラックバック by 草莽崛起 ーPRIDE OF JAPAN — 2007年01月12日  08:52

  17. 偶然ではない防衛省のスタートとタンカー・原潜衝突事故

     去る9日、いよいよ防衛庁が防衛省に衣替えした。いや、衣替えしたという言葉は適当ではない。文字通り、防衛省は、内閣府の外局(防衛庁)から、他省と並ぶ大臣を…

    トラックバック by 草莽崛起 ーPRIDE OF JAPAN — 2007年01月12日  08:52

  18. 日本はEU諸国と連携すべき。破産近し北朝鮮

    北朝鮮の核問題に関する6か国協議で日本首席代表を務める佐々江賢一郎・外務省アジア大洋州局長は11日、訪問先のワシントンで、テロ金融対策のスチュアート・レビ…

    トラックバック by 訳わからん このシャバは — 2007年01月12日  15:09

  19. 日教組が強いのは用心棒に部落解放同盟がいるから

     日本政策研究センターの『明日への選択』1月号に大阪八尾市で部落解放同盟と日教組による行政私物化と闘っている三宅博市議の、「同和行政」の闇と題してインタビ…

    トラックバック by なめ猫♪ — 2007年01月16日  23:56

  20. 共謀罪はクーデター?

    例によってドシロウトの妄言です。

    先に「官僚にもヤバイ?共謀罪」のエントリでも書きましたように、知人のM先生から共謀罪推進は《確信犯の憲法を蹂躙…

    トラックバック by 喜八ログ — 2007年01月25日  20:04

櫻井よしこ氏がネット新番組の発表をいたします。
「 外務官僚よ、国益を蝕むのか 」

新着記事

  • 2025年5月8日
    「 自民党再生へ、萩生田氏の決意 」
  • 2025年4月24日
    「 中国の覇権に連合体制で対応せよ 」
  • 2025年4月17日
    「 中国に屈服する石破・岩屋外交 」
  • 2025年4月10日
    「 米国の後退、戦略3文書を見直せ 」
  • 2025年4月3日
    「 習氏の檄、台湾侵攻の「戦備強化」 」

記事フィルタ

カテゴリ
月別アーカイブ

  •  ・番組出演のお知らせ(2025年3月20日)
  •  ・番組出演のお知らせ(2025年1月8日)
  •  ・番組出演のお知らせ(2024年12月24日)
  •  ・番組出演のお知らせ(2024年10月1日)
  •  ・番組出演のお知らせ(2024年9月9日)

新刊のご案内

暴虐国家
暴虐国家
異形の敵 中国
異形の敵 中国

  • 国家基本問題研究所 - jinf
  • 櫻井よしこ 公式Facebook
  • 櫻井よしこ 公式Twitter
このページのトップへ
creative comons

このサイトに掲載されているコンテンツは、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスの下でライセンスされています。

Copyright © 2025 Ascent Co.,Ltd. All Rights Reserved.