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2002.03.07 (木)

「 悪しき情報三法をつぶせ 」

『週刊新潮』 2002年3月14日号
日本ルネッサンス 第10回

官僚たちの悪しき企みが、この国を生ける屍の国にしようとしているかのようだ。

自由を奪われた形だけの報道と言論。個人情報を一元的に集中管理され、羊のように大人しく無気力な国民。その頂点に立つ、未来展望も無い青白い官僚たち。

他国の話でもフィクションでもない。これは現在進行形のねっとりとした動きが現実となった時の日本の姿である。動きを画策しているのは官僚集団だ。彼らは“ムネオハウス”や“ムネオ号”の騒動を、冷笑しながら見ているに違いない。国民と政治家の関心が鈴木宗男の“悪行”に集中している隙に、国民とりわけマスコミを厳しく管理し規制する法案を通過させることが出来るからだ。

ここ1~2週間で俄に見えてきた法案は、いずれも自由を重要視する人々にとっては信じ難く許し難い。まず、「人権擁護法案」だ。名称は素晴らしい。が、内容は危険である。 
「人権擁護」「人権尊重」の社会を作るために、法務省の外局として人権委員会を設置し、委員長1人と委員4人を置く。委員4人で人権侵害を調査し救済措置を講ずるとされる。従来の人権擁護制度と異なるのは、「報道機関による人権侵害」について、初めてプライバシーの侵害と過剰取材の定義を明らかにしたことだ。

報道による人権侵害は「特別人権侵害」と位置付けられ、「特別救済」を申し立てることの出来る被害者を、犯罪被害者、犯罪行為を行った少年、前2者の配偶者、直系及び同居の親族と兄弟姉妹に限定した。

では、どんな取材が禁止されるのか。「つきまとい、待ち伏せ、進路に立ちふさがり、住居、勤務先、学校その他……(で)見張りをし、押しかけること」「電話をかけ、ファクシミリ装置を用いて送信すること」だ。

確かに、行き過ぎた取材もある。「犯罪被害者の会」の代表幹事で弁護士の岡村勲氏は、恐喝犯に逆恨みされ、何の罪もない夫人を殺害された。被害者になって初めて、いかにこの国の法体系の中に被害者を守る思想が欠落しているかを実感したという。被害者の心やプライバシー、心身双方の立ち直りに配慮を欠いているのは、マスメディアも同じだと、氏は次のように語った。
「通り魔に娘さんを殺害された親御さんに、ワイドショーのリポーターが葬儀の夜、犯人逮捕に協力した人に一言お礼を言うために対談せよと迫ったそうです。父親は娘の死を突きつけられて呆然としているのです。対談する心の余裕がないのは明らかです。で、断りました。しかしリポーターはしつこく要求する。堪りかねて、帰ってくれと言って押し出そうとしたら、なんと『暴行罪だ!』とこのリポーターが叫んだそうです。被害者や家族への配慮に余りにも欠けた、許し難い行為です」

このような事例があるのも事実だ。だからこそ、メディア自身が過剰取材を自制するためのさまざまな手法を論じている。メディアと個々の記者に自制と責任ある取材を求めていくのは当然だが、かといって、メディア規制に政府が乗り出せば、その弊害は計り知れない程大きい。

国民への無言の圧力

「電話をかけ、又はファクシミリ装置を用いて送信すること」は許されないなら、取材は極めて困難になる。法案は「その者の私生活に関する事実をみだりに報道し」「名誉又は生活の平穏を著しく害する」ことも許さないとしている。だが、「みだりに」「著しく」という抽象的表現で報道を規制するのは危険である。なぜならこの種の抽象表現は、いかようにも拡大解釈され得るからだ。

目に余る行き過ぎた報道と地道で熱心な報道とどう区別するのか。「つきまとい」も「待ち伏せ」も、ある意味では社会部記者の学ぶべき「諦めずに足で稼ぐ」という取材の基本に通ずる。その否定は、ジャーナリズムの重要な要素の否定となる。両者の仕分けは、あくまでも報道する側が自己責任で判断するべきものだ。

この悪法と並行して今の国会に提出されようとしているもう一つの悪法が「個人情報保護法案」である。これまた素晴らしい名称の同法案は、昨年国会に提出されたが、表現・報道の自由を侵害するとして強い反対論が渦巻いた。同法案は、インターネット時代に個人情報が無軌道に悪用されないよう、歯止めをかけるのが目的だった。しかし、実態は出版社やフリーのジャーナリストに厳しい取材規制の網をかけるものだ。同法案を扱う内閣委員会の理事、民主党の細野豪志氏が語った。
「問題法案であるため、去年の臨時国会では審議もされませんでした。しかし今また、この法案を内閣委員会に付託して賛成を取り付け、本会議での採決に持ち込もうとする動きが急速に進められているのです」

小泉首相は報道を制限するこの法案には反対の立場だと伝えられている。また、昨年の同法案に対する反対の世論は非常に強く、幅広かった。なのになぜ今、法案採決の動きが再浮上するのか。細野議員が強調した。
「役人です。内閣官房の藤井昭夫審議官を中心に、官僚が猛烈な説得工作を展開しています。」

内閣委員会の与党委員たちは官僚たちに押され、法案が付託されれば賛成しかねない現状だそうだ。

官僚たちの目論見は、上の2法案に見られるマスコミ及びジャーナリストへの規制強化だけではない。過日小欄で問題提起した住民基本台帳法に関しても、呆れた動きがある。国民全員に11桁の番号を割り振って、ICチップ付きの住民カードを持たせて国民の個人情報を全国ネットのコンピューターで一元管理する、世界でも類の無い国民監視の仕組みが住民基本台帳ネットワークシステムである。

総務省はこのコンピューターに入力する情報は住所、氏名、年齢、生年月日、性別に限る、それを利用出来るのは10の省庁の93の事務に限るとしていた。その前提で国会も同法を成立させたはずだ。だが、官僚たちは早くも利用範囲を大幅に拡大するというのだ。不動産登記、自動車登録などを始め、153件の届け出事務にもこの番号制を使用するため、改正法案を準備していることを明らかにした。国民番号制導入の官僚の本音が見え始めたのだ。前提を違えたことは国会に対する完全な裏切りである。

メディアとジャーナリストに規制をかけ自由な報道を阻害し、情報を握ることで国民に無言の圧力をかけていく。喜ぶのは情報を握る立場に立つ、行政府の人々、つまり官僚である。

だが、この国は官僚のものではない。国民のものである。この国は独裁専制の国ではない。民主主義の国である。民主主義の基本は言論、報道の自由である。その自由を尊ぶ国民の意思を否定する法案に本当に賛成し、成立させたいと考える国会議員はいるのか。いるなら、少なくともその名を明らかにし、法案に明記することだ。未来永劫、この法案に責任を持ち、後世に恥じるところが無いのなら、自分の名を法案賛成者として長く残せるはずだ。それとも官僚に巧みに誘導されていたのなら、今からでも遅くはない。ここに記した悪法3案を廃止して、国民の期待に応えよ。

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