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2001.10.01 (月)

「 米国同時多発テロに対する報復不要論にみる非合理性 」

『週刊ダイヤモンド』 2001年10月6日号
オピニオン縦横無尽 第415回

米国に対する同時テロ攻撃への日本側の反応にはきわめておかしなものが目立つ。具体例は多々あるが、9月22日付の「朝日新聞」14、15両面が1例である。

徳島大助教授の饗場(あいば)和彦氏は「テロ生まぬ構造こそが必要」というタイトルで、このテロ攻撃を「やっぱり」と感じたと書いている。氏はその理由として「米国のアフガニスタンへの対応の失策」「米国の覇権的な単独主義の問題」の2つを挙げ、「テロが起きない構造をつくることが重要」と説き、日本政府は「米国に冷静な対応を促し、テロの生まれる構造を改善する方向で協力すべき」と主張している。

坂本龍一氏は「報復しないのが真の勇気」と題して「報復をすれば、傷つくのはどこにも逃げ場のない子どもを含む一般市民だ」「戦争支援宣言を(小泉首相が)したことで、同様のテロ攻撃が日本にも及ぶ可能性が増す」「一国の首相として、国民をあえてそのような危険にさらしていいのだろうか」と問う。そのうえで小泉首相は「平和的解決のためのなんらかの仲介的役割を引き受ける」よう勧めている。

両氏および両氏と同様の主張をする人びとは、このテロ攻撃ですでに少なくとも24人の日本人が行方不明となっており、おそらく犠牲となってしまったと思われることをわが事としては認識していないのではないか。テロ攻撃は米国で起きたけれども、同時に日本人に対するものでもあったのだ。報復は子どもや一般市民を傷つけることになるというが、すでに何千何万という子どもや市民が傷ついているのだ。坂本氏は自らもテロ攻撃の当日ニューヨークにいてその悲惨さを目撃し、そのうえで報復しないことが本当の勇気、「暴力は暴力の連鎖」を生むと警告する。

しかし、ハイジャックし、乗員乗客もろとも巨大な武器弾薬庫とした旅客機を無差別攻撃に使用したテロリズムと、そのテロリズムに対抗する動きを同列に扱うこと自体、非合理である。

饗場氏も坂本氏も日本が平和的解決のため仲介したり、テロの生まれる構造を改善せよというが、現在の日本を冷静に分析すれば、残念ながらこの国にはその力がないことは明らかだ。日本赤軍がハイジャックをして、日本で捕らえられている仲間と現金600万ドルを要求したとき、時の福田赳夫首相は「人命は地球よりも重い」と語って、赤軍派のメンバーを刑務所から釈放した。彼らがその後、世界各地でテロを起こし、多くの犠牲者を出したのは周知だ。テロリストに屈した国として各国から顰蹙(ひんしゅく)を買った日本が、今、どのようにしてタリバン政権やビンラディンと米国を仲介し関係を改善させることができるのだろうか。あまりにも非現実的な提案は無責任でさえある。

それにしても、私はある米国人の指摘に答えることができなかった。この米国人は問うたのだ。

「えひめ丸では、9人の尊い命が犠牲になりました。米国人は皆本当にすまないことをしたと考え、私たちは不十分ながらできるかぎりのことをしましたし、テロ攻撃を受けた現在でも米海軍はハワイ沖で船体の引揚げ作業に力を尽くしています。また費用も70億円を超えました。それでも日本の識者やマスコミは、厳しい米国批判を続けました。そして今、テロリストによってえひめ丸よりも多い、少なくとも24人の命が危ぶまれています。テロ攻撃に対し、これは米国のアラブ政策の誤りだという人はいても、声高にテロリストを非難したり、どんな犠牲を払っても対処していくべきだという声が少ないのはなぜですか。日本人は責める対象が異なればスタンスを変えるのでしょうか」

この問いは饗場氏や坂本氏だけでなく、おそらく、私たち日本人全員に向けられたものと考えるべきだろう。

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「 米国同時多発テロに対する報復不要論にみる非合理性 」

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