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2001.10.01 (月)

「決断力ない日本、恥ずかしい限り」

『日経ビジネス』 2001年10月1日号

このテロ事件が起きた日、私はちょうど取材で生まれ故郷のベトナムに着いたところでした。日本のNHKを含めて、米、英、仏など各国の番組が同時中継で入ってきます。テロ関連のニュースの洪水の中でチャンネルを次々と変えました。その中でやはりというか、日本が際立って異質だとつくづく感じました。

小泉首相自身の登場が遅い

例えば、テロ勃発後、すぐにブレア英首相がスピーチをしました。それは感動的でさえありました。彼は講演に行っていたらしいのですが、第一報を聞くなり講演を中止し、いち早く首相声明を発表しました。

「この戦いは米国対テロリズムではない。自由主義、民主主義全体とテロリズムの戦いであり、米国民がこの傷を癒して問題を解決するまで、我々の心も安んじることはない。米国とともに、自由のために戦う」と。目に涙を浮かべているようにも見えました。

いつもは米国に対し斜に構えるフランスのシラク大統領も、ロシアのプーチン大統領だって即座にテレビ画面に登場したことを鮮明に覚えています。

各国の首脳が米国支持を表明する中で、日本の印象は薄いのです。確かに日本政府が日本時間で翌日の午前1時ごろになって「極めて卑劣、言語道断の暴挙で、決して許されるものではなく、強い憤りを覚える」と首相声明を出したことを後で知りました。でも、それを発表したのは小泉純一郎首相自身ではなく福田康夫官房長官です。

即座に対処方針を小泉さん自身が発表すべきでしたね。結局、テロから1週間以上も経って後方支援など対米支援策を発表するまで、「ぶら下がり」という番記者を前にしたやり取りはありましたが、首相の実質的なメッセージは聞けなかった。この問題は立ち話や短いコメントで済ませられる性質のものではありません。

しかも、ぶら下がりの中では「怖い。何が起こるか分からない」とさえ、小泉さんは言ってしまう。田中真紀子外相に至っては、直前の米国訪問で警備が異常だったなどと語りました。外相として初の公式発言になるのに、全くのピンぼけでしょう。

米国は昨年秋のアーミテージ報告に次いでブッシュ大統領の安全保障担当の補佐官であり米国家安全保障会議(NSC)の上級部長のカリザド氏がアジア戦略のリポートをまとめ、日本とインドを安全保障の2つの軸として重視していく姿勢を鮮明にしています。今回の事件はそれに対して日本はこう考えるというメッセージを出すよい機会でもあったのに、とても残念です。

テロの首謀者にどういう距離を取って、どういう外交政策、軍事政策を取っていくのか、その中で米国との関係をどう維持していくのか、自由主義社会を自由主義社会たらしめているデモクラシーや、人権重視などの大きな価値観を守ることにどう貢献していくのか。同時にアラブとどういう関係を築いていくのか…。こういった課題への読みを深くして、戦略に基づいた対策を取らなければならないのです。

7項目にわたる対処方針に対し、米国政府は歓迎の意向を示していますが、額面通りに受け取って安心してはいけないと思います。

痛切に感じた国の文化の違い

私は小泉構造改革については全面的に賛成ですが、今回の事件では対処能力がないと言っていい。「初動」を見る限り、130億ドルも拠出しながら全く感謝されなかった湾岸戦争時の二の舞いを繰り返している気がします。

自国民の安否に多くの時間を割いている日本の報道も奇異に感じました。

それから大変胸が痛んだのが、「パールハーバー(真珠湾)の再来」という言われ方です。「真珠湾攻撃はだまし討ちというより、むしろ米国によって仕組まれた」という見方が出ているのに、「日本人はずるく、卑怯である」というイメージがここまで定着しているんだなと痛感させられました。

日本国内の議論も錯綜しています。

確かに日本には憲法第9条があります。でも、国際社会の現実を見ると、理屈や論理では通じない、力での解決しかない次元の問題がある。テロリズムはまさにその一つです。

日本での議論は「平和憲法の枠内で何ができるか」という組み立て方です。私はこの際、この憲法でいいんだろうかという憲法論議も深めていかなければならないと思います。

それは9条論議だけではありません。例えば、国民の権利と義務が書いてある第3章。権利という言葉は16回、自由が9回出てくるのに対し、責任は4回、義務という言葉は3回しか出てきません。責任と義務を国民は政府に頼り、政府は米国に頼る、そんな構図が見えてきます。だから「米国の戦争なんだから米国に任せておけばいい」という発想になってしまう。

国民性の違い、国の文化の違いもすごく感じます。米国は攻撃されると、みんなが自然発生的に米国の国歌を歌い、国旗をまとって、団結して強くなる。逆に日本は攻撃されるとすごく弱くなって、バラバラになる。国家という価値観がなく、個人がバラバラの集合体として暮らしている国です。

日本は決してダメではないし、大丈夫だと信じていますが、考えなければならないところは大いにあると思います。家族に例えてみましょうか。日本のお父さんは威厳が失われ存在感が薄くなってきた。そんな人たちの集団が社会をつくり、国家をつくっている。日本人の優しさは大好きですけれども、優しさだけではダメです。
(聞き手は花渕敏=日経ビジネス)

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