「 菅首相のエネルギー政策はでたらめ 長期戦略の構築が急務だ 」
『週刊ダイヤモンド』 2011年7月9日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 894
6月28日の民主党両院議員総会で菅直人首相は自党議員の罵倒も意に介さず、エネルギー政策が、次期国政選挙の最大の争点になると開き直った。
脱原発、再生可能エネルギー推進の大義を掲げて総選挙を打つ可能性を示唆し、選挙基盤の弱い自党議員らを恫喝したに等しい。翌29日夜、首相は3軒の店で「はしご酒」を重ねたが、さぞ、してやったりとの満足感に浸っていたことだろう。
それにしても首相の語るエネルギー戦略は後述のように、でたらめである。5月25日、フランスでの先進8ヵ国首脳会議で、首相は2020年代の早い時期に自然エネルギーの全発電量に占める割合を20%に引き上げる、具体策として1,000万戸の住宅にソーラーパネルを取り付けると語った。
現在、わが国の再生可能エネルギーは全体の約9%、水力を除けば風力・太陽光由来の自然エネルギーは約1%だ。これを20%に引き上げるとすると、巨大ダムを造り続けることも出来ないいま、地熱発電などの新技術の開発とともに、風力、太陽光発電を飛躍的に増やさなければならない。
風力発電量を10倍に高めると仮定しよう。そのためには、少なくとも大型風車1万4,200台の設置が必要だ。風車間には一定の距離を空けなければならないために、7,100キロメートルが必要となる計算だ。北海道から九州まで島々を入れて約3,000キロメートルの日本列島を一周する全海岸地帯にシルバーメタルの風車を設置しても足りないのだ。
太陽光はどうか。100万キロワットの電力創出には山手線内全域への太陽光パネルの設置が、また10%を確保するには、同規模の面積を全国に一七ヵ所、確保することが必要だ。
仮に右の設備を整えたにしても、それらがフル稼働するわけではない。自然条件を考えれば、実際の稼働率は、風力で20%、太陽光で12%が実績値である。首相の打ち上げた20%の目標値の実現がどれほど困難かが見えてくる。
大阪在住の川嶋慶昭氏が行ったおもしろい試算も紹介してみよう。
最先端を行くシャープの8メートル×3メートルの太陽光パネルを24枚屋根に載せると、3,912ワットの発電となる。365日間、午前6時から午後6時まで日照があると仮定する。この前提は非現実的で実際の日照は4分の1程度だが、首相発言に最大限配慮してこのように計算すると1軒の年間発電量は1万7,135キロワット・時になると氏は解説する。
日本の年間発電量は現在1兆1,337億キロワット・時、その20%は2,267億キロワット・時、それを前述の1軒分の発電量、1万7,135キロワット・時で割ると、じつに1億3,297万1,000戸分の発電となる。
繰り返すが、上の数字は午前6時から12時間の日照が365日続くというあり得ない好条件を前提にしたものだ。それでも1億3,300万戸近くが協力しなければならない。しかし、日本の総世帯数は約5,000万戸、逆立ちしても無理な目標値だ。つまり、首相はでたらめを言ったのである。
でたらめだらけの首相ではあるが、その脱原発の問いかけには、注意深い分析を加えなければならない。原発継続には国民と地域の合意が必要である。原発を継続するにしても、従来の原発行政すべての厳しい見直しと国民の目に見えるかたちで安全性を高めることが最重要となる。一方で、日本に適しているといわれる太陽光と地熱発電に、国策として取り組み、手厚く奨励することが必要だ。最大限努力すれば2080年頃には太陽光で大半のエネルギーを賄う技術が確立されると見られており、超長期的には脱原発は可能だ。
国益を考えれば、首相の脱原発志向を否定する必要はない。むしろ方向性としてそれを取り込み、長期エネルギー戦略を構築するのがよい。それは同時に、このでたらめ男のパフォーマンスを封じ込める唯一の道でもある。