「 二番底懸念が高まる日本に雇用と安保を両立させる策 」
『週刊ダイヤモンド』 2010年9月4日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 852
連日の円独歩高だ。日本時間の8月24日夜、円は欧州市場でついに83円台に入り、BBCは「円高が日本企業を殺しつつある(killing)」と報じた。菅直人首相がテレビカメラの前で「注意深く見守っていきたい」と、かしこまって語った数時間後のことだ。
国際社会の信頼を得ていないために、首相がどんな発言をしても、円高相場は改善されない。日本ひとり負けが続くなか、米国も欧州も協調介入の姿勢はまったく見せない。民主党政権の日本の友は、国際社会に一人もいない。
株価も日経平均で9,000円を割り込み、日本経済の二番底の危険が見えてきた。市場が無策政権への不信を表明したのである。
24日のぶら下がり会見で、記者が、円高株安のなか、連日、新人議員と会合する余裕があるのかとただした。
新人議員を招集しての一連の会合は、9月14日の党代表選挙で再選を果たすための票固めである。首相は前日に続いて24日も午前と午後の2回、懇談会に臨んだ。自身の再選へのかくも熱心な取り組みは、円高株安を他人事のように放置する姿と対照的だ。官邸記者の質問は、政策らしい政策も打ち出さず権力闘争に没頭する場合ではないだろうというもっともな批判である。
対して菅首相は口元を引き締め、いらだちを隠し切れずに答えた。「新卒者雇用特命チームも発足させました。やるべきことはきちんとやっています」。
今、大卒者の就職内定率は過去10年間で最低の80・0%、高卒者は81・1%で2004年以来の低水準にある。就職難を乗り切るには、雇用者が雇用できる環境づくりを急がなければならない。
輸出に支えられる日本経済は、円独歩高で文字どおり、悲鳴を上げている。輸出産業の基盤を揺るがす緊急事態の前で、首相はいかにも無策で意欲の欠如だと見なされる言動を慎み、為替で日本の産業力を殺ぐ事態は受け入れないとの強い政治的意思を発信しなければならない。そのために日本銀行総裁とじかに会い、意思疎通を図るのだ。
自民党時代には日銀総裁も参加する経済財政諮問会議があった。民主党は同会議を廃止したが、経済閣僚と日銀総裁が意見交換する新たな場をつくっていない。もともと、経済も金融も苦手とされる菅首相である。自身の国際社会に向けての発言力を高めるためにも、首相を支える強い構えをつくり、その基盤に立って発信することだ。
こうして円高を是正し、企業の基盤を強化し、雇用の改善につなげるとともに、政府が雇用を進める方法もある。一例が定員不足に悩む自衛隊の新規隊員を増やすことだ。日本周辺諸国がこぞって軍事予算を増やすのとは対照的に、わが国のみ国防予算を削り隊員を減らし続け、全部隊がすでに定員割れを来している。にも拘らず、来年度の新規採用は陸海空合わせて1,935人、5年前の5分の1で史上最少の採用数にとどまる。
結果、自衛隊は「ワイングラス」と呼ばれる年齢構成に向かっている。若い隊員が、中高年の隊員に比べて極端に少なく、年齢が下にいくほど、ワイングラスの脚のように細くなるのだ。これでは自衛隊は機能しなくなる。
隊員の初任給は年額320万円。1万人を新規採用しても、320億円だ。政府は2兆3,000億円の子ども手当を、来年度さらに上積みする構えだ。この兆円規模のバラまきは防衛省など他省庁の予算を一律10%削減して充当する。そのごく一部の負担で自衛隊員を増やすほうが日本のためになる。
中国の軍事的脅威への備えを、少し強化できるのが第一の意義だ。若者たちの教育機関として実績を上げてきた自衛隊で、心身共に信頼に堪える若者たちを育てる効果もある。著しく厳しい地方の就職状況を緩和し、働き口も供給できると思うが、どうか。
おそらく最善の雇用対策…
「日本経済新聞」の「高卒求人倍率、7月末0.67倍 就職氷河期と同水準」( 2010/9/17 20:54 )
来春、高校を卒業する就職希望者の求人倍率は今年7月末時点で0.67倍で、前年同時期より0.04ポイント下がったことが17日、厚生労働省のまとめでわかった。低下は2年連続。0.5〜0.6倍台で推移した「就職氷河期」の2000〜04年ごろと同じ水準で、1984年の調査開始以来、6番目に低い。
厚労省は「リーマン・ショック後に大きく落ち込んだ昨年より一段と低下しており、深刻だ。景気は持ち…
トラックバック by 言語空間+備忘録 — 2010年09月21日 12:56