「対日強硬策の中国と緊密化する米国 日本は傍観していてはいけない」
『週刊ダイヤモンド』 2008年12月20日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 769
米国ではオバマ新政権の誕生を前に、すでに新しいアジア政策が進行中だ。その特徴は際立つ親中国政策である。有力シンクタンクの一つ、ピーターソン国際経済研究所所長のバーグステン氏は、先進八ヵ国首脳会議(G8)に代わって米中が二ヵ国会議(G2)を主催し、世界の重要事を決めるべきだと主張する。バーグステン氏は、国際通貨基金(IMF)も国連も機能しないからG2が必要なのであり、G2体制の下で、場合によっては日本やEUに相談することもあるというのだ。
米中によるG2形成は実質的に進行中である。2006年から始まった米中戦略経済対話もその一例であろう。年二回の頻度で、すべての経済担当省庁から閣僚レベルの代表が参加し、対話の席には、主催国側の首脳、米国ではブッシュ大統領、中国では胡錦濤国家主席が参加する。
ポールソン米財務長官はこのG2を支持し、「米中両国が共有する利益に導かれて団結する」ことが重要で、「両国関係の基盤を単なる協調から共同運営へと進化させて、最終的には純粋なパートナーシップとして開花させていく」ことを目指すと述べている。
米中緊密化が進むなかで起きた金融危機は、相対的に傷の浅い日本にとって本来、好機なのである。しかし、就職の内定取り消しや、大企業のリストラなどが報じられるたび、政府も民間企業も国民も、後ろ向きかつ内向き志向になる。だが、しっかり考えさえすれば、日本の余力をもって反転攻勢をかけることができる。そのことに目を向けないのはどうしてだろうか。
たとえば中国はいったい何をしているだろうか。中国の受けた傷は日本よりも深い。中国で展開する驚くほどの数の企業が、リストラではなく、次々と工場などを閉鎖しているのである。その最中、中国共産党と国務院(中央政府)が来年の経済運営の基本方針を決める中央経済工作会議を八日から開いた。そこでは人民元の対ドルレートの切り下げが論じられた。
中国人民元は、むしろ切り上げられるべきなのだが、彼らは輸出振興のために切り下げを模索しているのだ。
中国の産業の多くは、付加価値が非常に低い。中国独自の技術を誇れるものは、今のところ、多くはない。輸出における最大の強みは価格の安さである。人民元が高くなればなるほど、すぐに行き詰まる。そのことを十分に認識しているからこそ、中国政府は人民元安に持っていきたいのだ。
ポールソン長官は、そのような中国に対してきわめて寛容である。氏は、05年7月から08年6月半ばまでの約3年間で、人民元は名目20%、実質23%切り上げられたとして、高く評価する。かつて、プラザ合意で1ドル238円から、最終的に79円まで、じつに約300%の切り上げ攻勢を体験した日本は、氏の偏ったと言わざるをえない対中評価は、米国の中国傾斜の度合いを示すものとして、心に刻んでおくべきであろう。
中国政府は元安誘導に加えて、尖閣諸島と東シナ海問題で対日強硬策を採りつつある。中国側は12月八8日、尖閣諸島周辺の日本領海を九時間半にわたって侵犯したうえ、同海域での中国の「実効支配」の実績が必要であり、今後、「同海域の管轄を強化する」と発表した。
経済成長が鈍れば、天地ほども開いた格差に憤る国民の不満は暴発しかねない。暴発を抑制するには、元安で経済を守り、吸収し切れない不満は対日強硬策で発散させる構えでもあろう。
だが、国内の不満の強弱にかかわりなく、尖閣諸島と東シナ海の実効支配を狙う中国政府の意図は変わらない。尖閣諸島への中国軍の上陸もありえないことではない。領土防衛に全力を注ぐべきこの時期に、自民党も民主党も、政局に明け暮れていてはならないのである。