「 イスラム国や中国から目をそらさず日本の在り方を議論すべき時 」
『週刊ダイヤモンド』 2015年2月14号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1071
イスラム教スンニ派の過激テロリスト勢力「イスラム国」が、ヨルダン軍のパイロット、カサースベ中尉を殺害したとする映像をインターネット上に公開した。26歳、半年前に結婚したばかりの中尉を、イスラム国は無残にも焼殺したと報じられた。
世界ウイグル会議代表のラビア・カーディル氏らは、イスラム国はイスラムの名を語るがイスラム教徒とは全く異なる。世界のイスラム教徒約16億人の圧倒的多数は穏やかな人々であり、彼ら自身、イスラム国に弾圧され脅やかされていると強調する。
イスラム国は1月26日、全世界への挑戦状、「テロ決行指令」をインターネットで明らかにし、イスラム国の標的は2つだと宣言している。(1)米国を中心とする有志連合参加国とその国民、(2)対有志連合の聖戦(ジハード)に参加しない全てのイスラム教徒、である。自分たちだけが絶対的に正しく、他者は全て殺害するというこれ以上ない身勝手な主張だ。
これは言葉上だけの脅しではない。彼らは同じイスラム教徒にも原理主義の極端な思想に「改宗」しなければ処刑すると警告し、実際に幾多の穏健なイスラム教徒を殺害してきた。
彼らに話し合いが通ずるはずもないのだが、日本の国会ではまだ的外れな議論が続いている。野党は安倍晋三首相が1月17日のエジプト演説で「イスラム国と闘う国への支援」を表明したことが日本人殺害のきっかけになったのではないかと迫る。4日には民主党の細野豪志、辻元清美両氏までこの論難に参加した。しかしイスラム国自身、日本は「非軍事的支援で貢献」と動画上に表示しているのであり、民主党の非難は当たらない。
イスラム国は、日本の援助が非軍事的だと知りながら、日本人も標的だと宣言したのだ。日本国の政治家はいま首相演説を非難するのでなく、国家として国民を守る手立てをどう築いていくかに集中すべきであろう。
テロ勢力の日本への入国を防ぎ、日本人が彼らに拘束されたらどう救出するのか。答えは先週の小欄で指摘したように、日本も他の先進国同様、対外情報機関を持ち、その下に実行部隊を置くという点に尽きるだろう。
イスラム国の脅威は眼前で進行中の危機で、一日も早い対策が急がれる。そのことと並行して、私たちが国の在り方について真剣に考え直す時が来ているのである。戦後、日本人は、日本が非軍事政策を貫き、平和を唱えていさえすれば、世界は日本に害をなさないと考えてきたが、そうではないことは明らかで、国民の命を守る体制を変えなければならないのである。
首相は2月3日の参議院予算委員会で「自民党はすでに9条改正案を示している。なぜ改正するのかといえば、国民の生命と財産を守る任務を全うするためだ」と語った。
自民党は3年前の4月の憲法改正案で9条の改正を明確にうたっている。
4日、首相は自民党憲法改正推進本部長の船田元氏らとの会談で、憲法改正の発議は来年夏の参議院選挙後になるとの見方を示した。同本部事務局長は、憲法改正の発議事例として、緊急事態条項や環境権などを示している。加えて首相が、あらためて9条改正を問うこともあり得ると語ったわけだ。私はそれこそが正しい方向だと思う。
一方、岡田克也氏は、1月18日の民主党臨時党大会で「安倍首相の下の憲法改正論議には慎重でなければならない」と語った。この種の決め付けや反発、あるいは9条を問うこと自体が軍国主義や戦争への突入だというかような思い込みで、日本国の在り方についての議論を停滞させる時期ではないのではないか。
イスラム国の蛮行や中国の脅威から目をそらさず、現実に即して日本国の在り方を考えてほしいものだ。