「 尖閣諸島周辺海域の日台漁業協定 『沖縄県が政府に抗議』の真相 」
『週刊ダイヤモンド』 2013年4月27日・5月4日合併号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 983
沖縄県の仲井眞弘多知事が、4月10日に日本と台湾が結んだ尖閣諸島周辺海域に関する漁業協定の撤回を安倍政権に申し入れると、「沖縄タイムス」が報道した。同紙は高良倉吉副知事が杉田和博官房副長官に「抗議」したとも報じた。実態を見てみよう。
尖閣諸島問題で大事なことの一つが、中国と台湾が足並みをそろえて対日攻勢に出る事態を防ぐことだ。そのために日本は常に台湾と意思の疎通を図り、日台協力の枠組みをつくらなくてはならない。それは日台の漁民が尖閣周辺の漁場で共に漁ができる協定を結ぶことだと、私は長年主張してきた。
台湾の漁民にとっては父や祖父の代には、自分たちは日本人だったのであり、尖閣周辺の漁場には自由に入れたという記憶がある。それが、いま、できない。そのために不満が募り、尖閣の海に押し寄せたりする。
台湾漁民の不満を利用するのが中国だ。時には彼らに抗議活動の資金を与え、政治的要求を掲げさせた。1月24日には、台湾の抗議船に中国の海洋監視船「海監」3隻が約50分にわたって付き添う形で航行した。中台連携を印象付ける意図だった。
このとき台湾側は、中国船から離れ台湾は中国とは連携しないと行動で示してみせた。両者の違いは、中国が尖閣の領有権を主張するのに対し、台湾は日本と共に漁をするための入会(いりあい)権を優先していることだ。
今回の協定で、操業ルールも確立されていなかった海域に明確なルールが生まれ、台湾側に入会権も与えられた。日台共通の脅威である中国への牽制の構えもできた。同協定に関して馬英九総統は「日本の友人の誠意と善意」に感謝を表明した。無論、協定は日本にとっても一安心の材料である。
にも拘わらず、反対し撤回を要求する理由は何か。仲井眞知事には連絡がつかなかったため、尖閣諸島を所管する石垣市の中山義隆市長に聞いた。
「石垣市は協定を評価しています。反対していません。私たちは中国の脅威を深刻に捉え、長年、私たちの側から政府に日台協定の締結を急いでほしいと言ってきたのです。仲井眞知事も基本的に同じ考えだと思いますよ」
沖縄の新聞はこうした機微を伝えずに、沖縄は日本政府のすることに何でも反対という立場を、今回も取ったというわけだ。
尖閣諸島と石垣島の位置関係を確認すると、石垣島を中心に、北に尖閣、西に台湾がある。中山市長が語る。
「日台漁業協定では、台湾漁船が入ってくることになる尖閣諸島南の漁場をわれわれが思っていたより拡大しています。石垣の北方に当たるこの漁場では、八重山の漁民が“パヤオ”と呼ばれる浮魚礁を多数設置して、魚礁に集まる魚めがけて網を入れてきました。ここに台湾漁船が来ると、八重山漁民の漁獲高が大幅に減る懸念があります。一方、石垣島南の海域は、政府がしっかり守ってくれました。交渉事ですから満点は望みません。島の南の海を守ってもらえたことは高く評価しています。そこで島の北の海域を台湾側に少し拡大し過ぎたという点で、八重山の漁民を守る何らかの措置を考えてほしいと要望しました」
石垣島の北の漁場の現実は日本にとっては厳しい。中山市長の説明では、その海域で漁をする台湾漁船は数百隻を超えて800隻に迫ることもあるが、八重山の漁船はせいぜい十数隻にとどまるというのだ。
日本漁船の数は、台湾や中国に比べて圧倒的に少ない。漁獲量も同様に少ない。漁場を譲る譲らない以前に、中国牽制のために日台漁業協定がどれほど重要かが見て取れる。
沖縄のメディアはこのような事情を伝えるよりも「抗議」「撤回要求」などの表現で中央政府への非難の動きがあるかのように報じるが、そんな報道をうのみにしてはならないだろう。