カテゴリー:外交

「 捕鯨、怯まず正しさを主張せよ 」

『週刊新潮』 2010年3月4日号
日本ルネッサンス 第401回



2月21日、豪州を訪れた岡田克也外相は、西海岸の町、パースでスミス外相と会談した。世界屈指の美しさで知られるパースの自然とは対照的に、会談では鯨問題を巡る険しい対立が浮き彫りにされた。

南極海での日本の調査捕鯨に対して、米国の反捕鯨団体シーシェパード(SS)の妨害が続いているのは周知のとおりだ。SSは、本部を米国に置き、カナダ、豪州、ニュージーランドなど複数国のメンバーで構成する。彼らの3隻の船籍はオランダ、ニュージーランドに分散されている。

SSの活動は豊富な資金に支えられ、年々激化してきた。失明の恐れのあるレーザー光線を捕鯨船に向けて発したり、スクリューに巻きつけようと船の後方にロープを投げ入れたり、人命損傷や船の大破につながりかねない攻撃はテロに等しい。

にも拘らず、SSに、日本の捕鯨船攻撃のための「母港」を提供する豪州政府は、日本政府の出入港の禁止の要請を拒否し、国際司法裁判所に日本を提訴すると表明した。

本来なら貿易、環境、安全保障面で二国間関係を深める前向きの協議にならなければならないところを、両国外相会談は鯨問題で躓き、むしろ、摩擦を生み出しつつある。

私は、捕鯨問題からどうしても満州事変を連想してしまう。ワシントン体制で定められた国際条約を踏みにじり、日本を挑発し続けた中国に、日本が遂に行動を起こしたのが同事変である。駐中国米公使マクマリーは、事変を起こした日本を厳しく批判しながらも、そこに至るまでに、いかに日本が国際条約を守ろうと誠実に努力したかを強調したうえで、「満州事変は中国が自ら蒔いた種を刈り取っているようなものだ」と述べた。真の責任は中国にあると断じたわけだ。が、国際社会は中国に同情し、日本を悪者扱いした。


中曽根元首相の妥協

捕鯨問題では、国際捕鯨委員会(IWC)の決定から見ても、国際法から見ても、正しいのは日本である。間違っているのはSSと彼らを支える反捕鯨諸国である。しかるに、国際社会にテロリストと見紛うSSへの支援の輪が厳然として存在するのはなぜか。38年間、捕鯨問題を研究してきた水産ジャーナリストの会会長の梅崎義人氏は、日本政府の重ねた妥協が原因だと語る。

「IWCは1982年に、3年後の85年から商業捕鯨を中止してモラトリアムに入ると決定しました。しかし、モラトリアムに必要なIWC科学委員会の勧告は得られず、同宣言は無効のはずでした。このとき日本は決定に異議を申し立てて商業捕鯨を続けようとした。事実、ノルウェーはIWCの決定を不当として従わず、現在も商業捕鯨をしています」

が、思わぬことが起きた。日本政府が腰砕けになったのだ。

「異議申し立てに、官邸から中止の指示が下ったのです。中曽根康弘元首相でした。米国も、日本が異議申し立てで商業捕鯨を続けるなら、米国の海岸から200海里以内の日本の操業を禁止すると、強い圧力をかけました。日本は引き下がりましたが、ノルウェーは、捕鯨をやめればシシャモが全て鯨に食べられて沿岸漁業が潰れるとして突っぱねたのです」

85年といえば、中曽根元首相の靖国神社参拝を、中国が初めて批判した年だ。氏は批判に屈して翌年から一切の靖国参拝をやめた。以来、中国は日本非難の靖国カードを手に入れ、今日に至る。

中曽根元首相は、氏の国際外交の基本は「右手に禅、左手に円」だと述べた。日本文化を高く掲げ、経済力と合わせて国際社会に地位を築くという意味だ。実際には、しかし、氏は日本の価値観の象徴である靖国参拝を放棄し、伝統的食文化を支える捕鯨でも、妥協していたわけだ。

こうして日本は商業捕鯨から撤退し、87年から調査捕鯨の時代に入った。確かなことは、調査捕鯨はIWCが認める合法活動だということだ。だが、SSもグリーンピース(GP)も違法かつ危険な妨害をやめないのである。

この1年、政府は一体どんな手を打ってきたのか。梅崎氏が語る。

「政府はオランダ政府にはSSの船の船籍剥奪を、豪州政府にはSS船の豪州の港への出入りを禁止するよう、要請してきました。けれど、両国から回答はなかったのです」

回答も得られず、1年が過ぎた。そして昨年10月に来日したオランダ首相、バルケネンデ氏に鳩山由紀夫首相が「旗国としてのきちんとした対応」を求めた。オランダ政府は今年2月5日までに、妨害船の船籍剥奪を可能とする船籍法の改正案を議会に提出した。対照的なのが豪州政府だ。前述のように、岡田外相に「出入港を禁止する法的根拠はない」と、拒否回答をした。


無意味な個人的嗜好論

ケビン・ラッド労働党党首は07年の総選挙で「日本の調査捕鯨の違法性を国際法廷で訴える」との公約を掲げ、環境団体の支持も得て、首相に就任した経緯がある。政権には、GPの元理事、ピーター・ギャレット氏が環境大臣として入閣している。

親中派のラッド政権は、誕生当初から厳しい対日政策を展開し、政権発足翌年の春、18日間の外遊に出たが、欧州、米国、中国を訪れながら、日本には立ち寄りもしなかった。

GPとSSは、表向き別団体ではあるが、両者は協働関係にあると見てよいだろう。過激で、違法行為も厭わない両団体に代表される環境保護勢力が、ラッド首相の有力支援団体のひとつであるなら、同首相は政治的思惑からも、日本に不当な圧力をかけ続けると考えてよいだろう。

では、日本政府はどう対応すべきか。まず何よりも事実を前面に押し出し、日本の立場を主張しなければならない。IWCの科学委員会は、日本が実施してきた精緻な調査結果を非常に高く評価し、一定数の鯨の捕獲を必要と認め、支持してきた。だが、総会では、科学が置き去りにされ政治的思惑が前面に躍り出る。

それでも、SSなどの挑発に乗って力による紛争を起こすことは得策ではない。その代わり、断固たる法的措置と、なお粘り強く、決して負けない説得が必要となる。鯨が食べる魚の量は年に約4億トン、人類の年間漁獲高9,000万トンを大幅に超えていることなど、日本の科学調査結果の周知徹底とともに、日本の食文化として鯨の位置づけをこそ、語らなければならない。

幸いにも、豪州にも米国にも、一方的に日本を非難するだけではないメディア論調もある。鳩山首相は先のオランダ首相との会談で、「自分自身は鯨肉は大嫌い」と語ったそうだが、無意味な個人的嗜好論から離れ、国際政治は「友愛」だけでは片づかないことを肝に銘じるべきだ。日本の立場を主張する首相としての原点に立つことである。

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「 CO2温暖化説を疑い始めた英国 なぜ日本に検証の動きはないのか 」

『週刊ダイヤモンド』   2010年2月27日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 827



まだ暗いうちから起き出して少し空が明るくなる頃、ちょうど仕事に区切りがついた。障子を開けてみて驚いた。庭一面、雪で覆われている。急いで障子を全開にして、雪の舞い降りる様を眺めた。なんと静かで美しいことか。

今年2度目の雪である。サクラの花の頃まで、まだ幾度か降るのだろうか。

それにしても、今年の冬の寒さは厳しいような気がする。今年数え年で100歳になる母と同居しているために、なるべく家を暖かく保っているが、いちばん寒いのが私の書斎である。去年も一昨年も同じ条件のはずなのだが、今年の寒さは例年以上だと感ずる。ずっと座って何時間も仕事をする人間の、それが、体感である。

そんなとき、CO2削減や排出枠取引などの問題とはまったく別に、温暖化問題について考える。過日、ワシントンの大雪情報を報じながら、古舘伊知郎氏が「報道ステーション」で思わずこんなふうに言っていた。

「温暖化だというのにこの大雪、寒さ。私の頭の中も混乱しています」

氏は、温暖化問題というと、いくぶん声を低めにして深刻な表情をつくり、「CO2問題は待ったなしです」などと、警告を発してきた人物だ。氏の気持ちも想像出来ないわけではないが、私は思わず呟いた。「もう少し幅広く、情報をお取りなさいね」と。

世界各国の主な気象研究所のデータを拾ってみると、地球の気温はこの10年、上昇をやめている。というより、下降しているのだ。かといって地球は広く、地域によって大きな差があるために、私たちはなかなか、科学的な数字そのものを体感できるわけではない。たとえば大都市の居住者は、膨大なエネルギーを消費する町の熱の中で暮らしているために、気温の下降は実感できないだろう。けれど、考えるための材料の一つとして、主要研究所の観測データが気温の下降傾向を示しているという事実だけは、頭に入れておくのがよいだろう。

昨年11月に、英国のイースト・アングリア大学気候研究所ユニットのコンピュータにハッカーが侵入し、研究者間でやり取りされた膨大なメールがネットに流出した。メールは国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の研究者らが書いたもので、その中にCO2と気候変動を因果関係で結び付けるために、数字に「トリック」を使ったなどという内容のものがあった。

IPCCの報告書で、人類は早急にCO2削減に向けて対策を立てる必要があるなどの警告を発する側に立つ研究者らのメールにも、同様の内容が散見されたことから、国際社会はこの件で議論が沸騰した。欧米諸国では、この問題は議会で取り上げられもした。

メディアも「クライメートゲート」として大々的に伝え、IPCCの研究者たちが、温暖化はCO2が原因だと結論づけ、宣伝するために、科学をどこまで歪めたのかを検証した。

興味深いのは日本の反応だった。メディアの報道が非常に少ないのだ。古舘氏のニュース番組は、CO2問題について熱心であることから、膨大なメールの中にいったい何が書かれていたのかを、時間をかけて検証するのかと期待しないでもなかったが、番組で取り上げたとは私は寡聞にして知らない。

鳩山由紀夫首相も、国連で25%のCO2削減を国際社会に向けて公約した立場から、本当に温暖化とCO2には因果関係があるのか否かを、もっと真剣に研究してもよいはずである。

しかし、日本のどこを見ても、流出メールの検証をはじめ、CO2原因説に疑問を投げかけるまじめな議論は見当たらない。科学の目が、政治の目に圧倒されているのだ。CO2で極めて政治的な動きを展開してきた英国でさえも、CO2が温暖化の原因か否かを、疑い始めた今、日本こそ、もっと情報を大事にしなければならない。

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「 スリランカが守る鳩山援助隊 」

『週刊新潮』 2010年2月18日号
日本ルネッサンス 第399回


日本時間の1月13日にハイチで起きた地震は、総人口1,000万人の国に死者21万人強、被災者300万人強の被害をもたらした。90%以上の建物が崩壊し、首都ポルトープランスは壊滅した。あれから約ひと月、瓦礫の片づけははかどらず、医薬品も食糧も水も不足している。

地理的に見てハイチは米国の裏庭である。それだけにオバマ大統領は直ちに反応した。ハイチ問題についての、最初の演説でこう語っている。

「ハイチ問題最優先」で「米国の指導力」を発揮する。「神の恵み」の下で、「南の隣人たちと連携」する。「陸軍、海軍、海兵隊、コーストガード」を投入し、「米軍は24時間体制の」救出活動を行い、「政府は1億ドル(約90億円)を支出する」。

ハイチは数年前まで、激しい反政府武装勢力の活動で社会不安が続いていた。国連は04年に、PKO部隊、「国連ハイチ安定化派遣団」を送った。06年の選挙で新政府が発足し、ようやく治安が回復しつつあった矢先の地震だった。

このハイチに外交攻勢を強めたのが中国だ。中国は04年以降国連PKOに150人の警察部隊を派遣していた。今回の地震で中国部隊の幹部8人が死亡、中国政府は彼らを「英雄」として国葬で讃えた。

中国がハイチに力を入れる理由に、中南米における台湾の影響力排除があるのは明らかだ。現在、中国とハイチ間に国交はない。台湾と国交を維持する国は現在23ヵ国で、内12ヵ国が中南米に集中しており、ハイチはそのひとつなのだ。

もうひとつの理由は米国の裏庭に影響力を及ぼすことだ。中国の動きは素早く、中国軍の第一陣は地震発生から33時間でポルトープランスに到着した。米国、アイスランド、プエルトリコに続く早さだった。

日本はどうか。施政方針演説で声を限りに「いのち」と連呼した鳩山由紀夫首相は、ハイチの地震発生から約36時間後の1月14日夕方、記者団の質問を受けて、述べた。

「多くの人命が失われたこと、心からお悔やみを申し上げたい」

陸上自衛隊の国際緊急医療援助隊(国緊隊)が派遣されたのは地震発生から9日目の1月21日だった。彼らは23日に現地入りし、医療活動を開始した。


サマーワと同じ構図


自然災害時の援助では、何よりも即応することが大事である。だが、被害国の状況によっては、医療活動といっても危険が伴う。ハイチの場合、元々の社会構造の不安定に加えて、食糧や水不足による不安と不満が募り、国連援助隊が住民に襲われるケースも多発した。逃げきれず、国連側が催涙スプレーをかけたケースさえある。医療隊といえども、身を守る武器携行が必要である。

今回、国緊隊の派遣に関して政府決定が遅れたのは、まさに隊員の「いのち」をどう守るのかについて、判断出来なかったからだ。関連法は国緊隊の武器携行を禁じている。かといって、ハイチでは国連PKO活動が続いていたのである。それは紛争が続いていることを意味する。刻々と入ってくる情報も、ハイチの社会不安と危険性について警告するものばかりである。そのような地域へ自衛隊を丸腰で派遣して、隊員の安全を担保出来るのか。その見極めに時間がかかり、9日がすぎたのだ。

安全確保に目処がついたからこそ、派遣に踏み切ったわけだが、具体的にはどういうことだったのか。国緊隊の約100名は、首都から西方約40キロの町、レオガンの、エピスコパル大学の敷地に診療施設を設営し、すでに千数百名の患者を手当した。

その彼らの安全を守るのはスリランカ軍である。エピスコパル大の設営場所から1.5キロ先に、国連のスリランカ軍2個中隊が設営しており、国緊隊に危険が及ぶような場合、目と鼻の先から救援に駆けつけてくれるという想定なのだ。国緊隊の設営場所は、スリランカ軍との距離の近さもあって決定されたといえる。

そのことを知って思わず嘆息するのは私だけではあるまい。イラクのサマーワで活動したとき、自衛隊の安全を英国軍やオランダ軍に守ってもらったのと同じ構図である。だが、スリランカの人口は2,000万人強、およそすべての面でわが国よりはるかに小国だ。その小国に、日本を守る負担をお願いしなければならないのだ。スリランカの人々に感謝しつつも、このような体制からは一日も早く脱しなければならない。

日本が国緊隊を派遣した1月21日、国連は軍事部門で2,000名、警察部門で1,500名のPKOの派遣を諸国に要請、日本政府は応えて、2月5日に自衛隊員350名の派遣を閣議決定し、一次隊の6日の派遣にこぎつけた。護身用の武器として、拳銃、小銃、機関銃も携行を許された。自衛隊のPKO部隊は避難民収容施設の用地造成や瓦礫の撤去、道路整備などを担当するという。

鳩山首相はこの展開について、「2週間という(短時間で)PKO派遣を決めることが出来た。今までになかったことで、感慨無量の思いがございます」と語っている。


自衛隊派遣の恒久法を


たしかに従来のPKO派遣に要した数ヵ月単位の時間に比較すれば、今回の派遣はかなり早い。理由は大別して2つある。

ひとつは防衛大臣直属部隊としての中央即応集団が07年3月、自民党政権のときに創設されていた点だ。中央即応集団は陸上自衛隊朝霞駐屯地に本部を置き、約4,000名の隊員で構成する。目的は「国際平和協力活動や国内の各種事態への即応」だ。すぐ任務に飛び出せるように、あらかじめ種々の予防接種を受けている。全員のパスポートは金庫に保管され、装備も整えられている。同集団創設以前は、隊員への予防接種だけで月単位の時間がかかっていた。

別の理由は、与党となった社民党が日本国の責任を認識し現実路線を選んだせいか、自衛隊のPKO派遣に反対しなかったことだ。野党の自民党も無論、反対しなかった。

自衛隊のPKO部隊の派遣に米国は好意的である。「米国の裏庭」で進む中国の影響力拡大の動きに当然、彼らは苦々しさを覚えているであろう。そこに価値観を共有する同盟国として、本来、協力が期待されている日本がかつてない早さで援助に入ったのだ。インド洋からの撤退や普天間飛行場移設での迷走が、これで帳消しにはならないが、鳩山政権への否定的見方を幾分緩和する材料にはなるだろう。

それにしても、この機会に鳩山政権が手をつけるべきことがある。自衛隊のPKO派遣をその度毎に決め、常に行動が遅れて評価されない現行制度から脱却して、今回のように素早い対応を可能にする自衛隊派遣の恒久法を制定することだ。自民党に異論があるはずはない。外交・防衛で一致協力するよい機会である。

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「 米国から手痛い“しっぺ返し” 鳩山外交では日本は持たない 」

『週刊ダイヤモンド』   2010年1月30日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 823



鳩山政権下で日米関係はきしみ続け、日米安全保障条約改定調印から50周年の記念日の1月19日、日米両政府が合同で主催する記念式典はおろか、声明の合同発表さえも危ぶまれていた。


実際には、両国の外相と防衛相、計4人の連名で「日米安保50年 共同声明」が発表された。内容は、「日米安保体制は、引き続き日本の安全とともに、アジア・太平洋地域の平和と安定を維持するために不可欠な役割を果たしていく」「日米同盟は、すべての東アジア諸国の発展・繁栄のもととなった平和と安定を東アジアに提供している」と、日米安保条約を高く評価するものだった。

だが、日本側がひと安心するのは早いだろう。米国は、日米安保体制の「深化」に同意はしたが、具体策は話し合われていない。他方、米国が日本抜きでアジア諸国との絆を深める動きが進行中である。そして、その動きについて、米国は日本にひと言も語っていない。

今年1月12日、岡田克也外相はホノルルでヒラリー・クリントン国務長官と会談した。岡田外相が切望して実現したこの外相会談で話し合われたのは、もっぱら普天間飛行場移設問題だった。長官は過去の日米合意を守るよう日本側に要請することに終始した。

注目すべきは、外相会談のあと、同じ日に、ハワイ大学の東西文化センターで行った長官のスピーチである。「アジア地域連合の構築について、その原則と優先度」というタイトルだ。

読んで、少なからず驚いた。長官はこう語っている。「アジア・太平洋諸国との絆は米国の優先課題である」「オバマ大統領はアジア諸国とアジアの人びとを高く評価し敬意を抱いている。2011年には、米・アセアン会議を、このホノルルで開催したいと、大統領は考えておられるだろう」。

ここで聴衆から大きな拍手がわいたのは当然だ。しかし、その場に居合わせた日本政府関係者は愕然としたことだろう。なぜなら、来年、米国がアセアンとの会議を開催するなどとは、直前に行われた岡田外相との会談では、ひと言もなかったからだ。

長官はさらに語った。米国がアジア・太平洋諸国との関係を再活性化するべく準備を始めたのは、昨年の1月のことだったと。さらに長官は、オバマ大統領がアジア歴訪の折、米国は初めての米・アセアンサミットをすでに開催した、アジアに強力な軍事力を維持し続けることをグアム国際会議で表明した、米国はアセアン諸国と友好協力協定を締結ずみである、オバマ大統領夫妻が迎えた最初の国賓はインドのシン首相であるなどと、強調した。

「米国の未来はアジア・太平洋地域の未来とつながっており、同地域の未来は米国に依拠している」と長官は断じ、同地域への明確なコミットを宣言した。

しかし、前述したようにこの点について、米国政府は、日本に事前に知らせることも、いわんや、日本に参加を要請することもなかった。これこそ、鳩山外交への強烈なしっぺ返しである。

昨年9月23日、鳩山由紀夫首相はニューヨークでオバマ大統領と会談し、その直後、国連演説に臨んだ。首相は、CO2 25%削減案のほかに、東アジア共同体の構築についても提唱した。

寝耳に水の米国側は驚いた。国務省は日本外務省にその種の重要な外交政策を発表するのであれば、事前に同盟国に説明があってしかるべきだと、抗議したそうだ。

今回、米国は、日本がしたことを、そっくりそのまま、日本にして返した。不快感を見せつけたのだ。

米国は言葉どおりの外交政策を進めるだろう。中国の脅威に晒されるアセアン諸国にとって、米国のコミットは歓迎以外の何物でもないはずだ。孤立するのは日本である。鳩山外交では、日本は持たないということだ。

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「 CO2地球温暖化説を推進するIPCCや鳩山政権の活動への疑問 」

『週刊ダイヤモンド』   2009年12月5日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 816



英国のイーストアングリア大学は、地球環境研究の最前線を行く大学の一つである。権威あるこの大学の気候変動研究所のコンピュータがハッキングされ、eメールの記録が流出、十数年間にわたるメールの往来が一挙に世界中に暴露された。そこに登場するのは、気候変動の分野で刮目されている学者・研究者らである。

IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の有力メンバーである彼らは、人間が排出するCO2(二酸化炭素)によって地球の温暖化が進んでいるというIPCC報告を科学的に理論づけた人びとだ。

ところが、そうした表向きの発表とは裏腹に、私的なメールのやりとりでは、「事実は、われわれは現在、温暖化現象の欠落について(lack of warming)説明出来ないということだ。まるでパロディだよ」(ケビン・トレンバース氏、国立大気圏研究所)などと会話していた。温暖化を警告した彼らが、地球は温暖化していないと、私的会話で認め合っているのだ。

このニュースは、「ニューヨークタイムズ(NYT)」紙、「ワシントンポスト(WP)」紙なども報じ、現在ネットに情報が飛び交っている。

膨大な量の流出メールには次のようなくだりもあった。イーストアングリア大学で長年、地球気候を研究してきたフィル・ジョーンズ氏が、過去200年間の気候変動を示す図を作成するに当たって送ったメールである。

「作業を完了したばかりだ。(地球気温の)降下を隠すために、1961年以降の記録についてはケイスのトリックを、81年以降の記録についてはマイクのトリックを使って、それぞれ本当の(real)気温に上乗せした」

メールの送り先は、ペンシルベニア州立大学のマイク・マン教授らである。マン教授は、NYT紙の取材を受けて、メールが本物だと認めた。そのうえで、ジョーンズ氏の語彙の選択はまずかったが、科学者はトリックという言葉を問題解決の妙案を示す言葉として用いることがよくあると弁明した。

流出メールからは、IPCCのそうそうたる研究者らが、温暖化に疑問を抱く研究者らに「悪意に満ちた感情」(WP紙)を抱き、彼らの研究論文を専門学術誌に掲載させないように圧力を加え、学界やメディアから排除すべく画策したことも明らかになった。温暖化問題は、科学の本質から遠く離れてしまっていると疑問を提起する科学者の声はこうして封じ込められてきた。

省エネやCO2削減自体には諸手を挙げて賛成しても、CO2削減をめぐる欧州、とりわけ英国、そして米国や中国などの動きに十分に警戒しなければならないゆえんである。諸国の思惑は、いかにして自国に有利なCO2削減の枠組みをつくり、省エネ先進国日本から技術も資金も吸い上げようかという点にあることを忘れてはならない。


こんな折、鳩山内閣はCO2削減が経済に与える影響の試算について、専門家会合(タスクフォース)のメンバーを「鳩山政権のやりたいことを本当に応援してくれる」人びとに置き換える方針だと、11月25日付の「朝日新聞」が一面トップで伝えた。

麻生太郎前政権下の試算では、(鳩山氏の)25%案の家計負担は1年間22万~77万円の範囲となった。鳩山内閣はこの数字を不満とし、タスクフォースをつくり、民主党独自の試算をさせた。11月19日の中間報告で、結果は13万~76.5万円の家計負担とされたと、「朝日」は報じている。ほとんど変わらない負担額だったわけだ。そこで民主党は、メンバーを選び直して、再試算をする方針だというのだ。これではあまりにも恣意的ではないか。なにがなんでも自分たちの掲げた25%案を正当化するということか。流出メールとともに、現在の温暖化対策に疑問を抱かざるを得ないのである。

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「 日米首脳は中国に対して現実よりも理想を見がちだ 」

『週刊ダイヤモンド』   2009年11月14日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 813



21世紀の残りの90年間、日本人の運命は台頭した中国の脅威をどうかわすかによって決まる。大事なことは、日本がその脅威を認識し、備えることである。

明らかに鳩山政権には、中国の脅威への認識が欠けている。そこから生まれてきたのが「東シナ海を友好の海にする」「東アジア共同体をつくる」などの発想だ。理想のなかで現実を見失っている鳩山由紀夫首相の対中外交は、米国のオバマ大統領の、これまた理想外交と重なって、負の相乗効果を生み出していきかねない。

たとえば、オバマ大統領が提唱した「核のない世界」への道である。大統領は、(1)戦略核兵器の配備数をこれまでの千単位から百単位に削減、(2)戦略核の予想使用範囲を狭め、(3)将来の核の信頼性確保のための実験や新たな開発を行わない、を打ち出した。

核の力による抑止効果を担保するという従来の戦略から、超大国の米国が率先垂範して大胆な軍縮を断行することで、地球上の核拡散を阻止する戦略への転換である。

ミリバンド英国外相が語ったように、オバマ戦略がうまくいけば、「地球社会の安全性は高まり、核のない世界が実現し、地球温暖化の前に、人類は(原子力発電という)安全かつ信頼性の高いエネルギー源を確保しやすくなる」。しかし、失敗すれば、「人類は核拡散と、テロリストが核兵器を手にするという背筋の寒くなる現実に向き合わなければならなくなる」。

事実、米国もロシアもヨーロッパ諸国も、イランの核開発を止めることはいまだ、できていない。また、オバマ大統領はロシアには核軍縮を呼びかけたが、中国の核については取り立てて発言していない。

米国大統領もまた、日本の首相同様、中国に対しては現実よりも理想を見がちだと言わざるをえない。核軍縮はしかし、現実の国際政治のなかでどのように進展するのかは、見通しが立っていないのであるから、今、中国の核兵器に言及しないからといって、ただちに影響が出るわけではない。大統領自身、核軍縮も核のない世界の実現も、遠い遠い目標だと認めている。それだけに、中国の核について言及しないことは、中国の経済協力を死活的に必要とする米国の、不必要な摩擦を避けるという意味での戦略でもあろう。

だが、次世代戦闘機F22ラプターの生産中止と対日輸出の拒否は、あと10年、15年のうちに深刻な影響を及ぼしかねないきわめて現実的な問題だ。

第五世代の戦闘機F22は、中国が開発中の彼らの第五世代の戦闘機に対処出来る唯一の現存する戦闘機である。米国は日本に、いつ開発が終わり実戦配備出来るのか未定のF35を薦めるが、その間に、中国は第五世代の戦闘機とともに、現在保有している第四世代の戦闘機の改良型を作りつつある。第四世代と第五世代の中間タイプである。

中間タイプが完成すれば、日本は完全に中国に制空権を握られ、日本の安全保障は危機に直面する。日本が自らの安全のために取りうる措置として、米国の核抑止力をより確かなものにするか、究極的に日本自身の顕著な軍事力の整備に踏み込むことが考えられる。この点は、国内議論を重ねなければならないが、懸念すべきは、なぜ、オバマ大統領がF22の生産中止、対日輸出拒否という結論を出したかである。

ゲーツ国防長官は今年7月、こう述べている。

「2020年までに米国空軍は約1,100機のF22およびF35を備え、最強の空軍であり続ける。対照的に中国は20年にはいまだ第五世代戦闘機の開発に至らず、米中の軍事力の差は現在よりも拡大すると予測される」

こうした見通しが大統領の軍縮およびF22生産中止を後押ししたと見られる。私には、日米両国が中国の脅威を過小評価している気がしてならない。

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「 展望を欠く民主党25%削減案 」

『週刊新潮』 2009年11月12日号
日本ルネッサンス 第386回



鳩山由紀夫首相は9月22日、国連気候変動首脳会合で演説し、地球温暖化と闘うために日本は1990年を基準とし、2020年までにCO2排出量を25%削減すると発表した。

これは2005年を基準とすると30%削減に相当する数値目標だ。鳩山首相は日本が率先垂範すれば、米国も中国も発奮してついてくることを期待した。米中2ヵ国が排出するCO2は全世界の排出量の40%を優に超える。対して日本の排出量は4%だ。優等生の日本が25%という、どの国も提案さえしていない大目標を掲げれば、他国は追従せざるを得ないと、鳩山首相は考えたらしい。

しかし、現実には米中は数値目標を掲げて自らを縛ることはしなかった。日本ひとりが突出した目標値を国際社会に公約した形になった。

いま問われているのは、25%削減の達成にはどれほどの負担が必要かという点だ。政府の有識者によるタスクフォースは、10月27日、標準世帯の負担を年間22万~77万円とした。負担は企業にも重くのしかかる。新日鐵の三村会長は「日本から逃げ出さなければならない産業も出てくるかもしれない」と述べた。

民主党はたしかに、衆議院で308議席を勝ちとり、鳩山氏は首相になった。だからといって、国会での所信表明の前に、つまり、国民への説明を全くしないまま、いきなり国際社会に向けて、国民生活に深く関わってくる25%削減案を公約してよいものなのか。そもそも、民主党の数値目標はどのようなプロセスを経て精査されたものなのか。

こうした疑問を解明するために、去る10月20日、私も関係するシンクタンク、国家基本問題研究所(国基研)が研究会を主催した。千代田区の星陵会館で行われた研究会には、民主党側から、地球温暖化対策基本法案の発議者の一人、前田武志参議院議員が、財界を代表して経団連環境安全委員会委員長の坂根正弘小松製作所会長が出席した。IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第4次評価報告書を纏めた専門家の一員で電力中央研究所の杉山大志上席研究員も参加した。


熱心に学んだ、だが…

3氏の議論から、民主党案は事前にある程度の見通しを立てて提案したものではないことが明らかになった。鳩山首相は10月7日、地球温暖化問題に関する閣僚委員会を開き、25%削減の経済効果や負担、目標値達成の具体策を検討する研究チームを設置することを決めた。具体的に何をすべきか、国民にどう説明出来るのか、それを研究するチームを漸く、立ち上げるという。言い換えれば、25%案は数字ありきだったということだ。

前田氏は、次のように説明した。

「民主党は08年1月に地球温暖化対策本部を作り、去年の通常国会で、温暖化対策基本法案を提出しました。それがマニフェストに載せた目標値です。25%の根拠ですが、民主党は野党の立場で同案を纏めたわけです。野党でしたから目標値を導き出す根拠となるデータを全部揃えてやることは不可能です」

民主党の地球温暖化対策本部での議論を主導した一人が同本部の事務総長を務めた参議院議員、福山哲郎氏である。氏には、国基研の研究会に先立って話を聞いた。その折、氏は「環境問題をライフワークにしてきた」、「温暖化問題には誰よりも熱心に取り組み勉強してきた自負がある」と語り、熱心に民主党案の正当性を説いた。

たしかに、福山氏も前田氏も熱心に学んだのであろう。だが、民主党案では、彼らの学習は、地球環境という優れて科学的な問題の解決に必須の科学的データにまったく結びついていない。むしろ、注意深く避けなければならない国際政治の罠の中に入り込んでしまっている。なぜそうなったのか。前田氏が語った。

「政権を取る1年くらい前、我々が政権を取ったときには覚悟を決めて、そういう世界(25%削減の世界)に入っていこうと、互いに意思を固めていたのです」

鳩山首相の国連演説での高揚した表情が浮かんでくる。首相もまた「覚悟を決めて」「そういう世界」に入っていったのだ。であるにしても、日本の国益を担う政治家として、入っていった世界で勝たなければならない。成果を上げなければならない。そのためには、まず、自分が何を言っているのかを理解しなければならない。だが、前田氏は繰り返す。

「具体的データというのは全くありません」「組閣をするまでは、私どもは政府へのアクセスは一切なかった。結局国会議員自身が、自らデータを集め、勉強するしかなかった」「根拠がないと言われれば、これはもうしようがないんです」

根拠もなく作成された民主党案について説明しなければならない前田氏の立場は本当に気の毒だ。同情しながらも、鳩山政権の下で日本はどこまで迷走するのか、暗い気持になってきた。


民主党の無責任

前田氏はそれでも、根拠として、IPCCが発表した報告書に「世界で出しているCO2を現在の400億トンから200億トンまで半減しなければならないとあった」ことを述べた。対して杉山氏が、やんわりと反撃した。

「IPCCは世界気象機関と国連環境計画が共同で設立した機関です。世界各国の科学者が種々の科学論文を集め、このような情報がありますと、提示します。しかし、2050年までに50%減らすべきだとか、その種の数字を提言したことはありません。その種の提言をするのはむしろ、ヨーロッパや日本の政治家や行政官の方々です」

IPCC報告は、如何なる意味でも、具体的環境政策を提案するものではなく、単に、種々の情報を、各種論文から拾い集めたものだというのだ。それを、ヨーロッパ、特に英国が利用し、EUにとっては極めて有利な、しかし、日本にとっては極めて不利な京都議定書を作成した経緯がある。

京都議定書が日本にとって不利に働くのは、日本が高水準の省エネを達成した1990年を基準としているからだ。他方、EUは、90年以降、東欧諸国をメンバーに加えたために、ありふれた技術移転で容易にCO2を削減出来る。高水準を達成したあと、さらに省エネしなければならなかった日本と、90年以降、漸く省エネの始まったEUとは大きく事情が異なるのだ。

だからこそ研究会では、なぜ民主党は、麻生前首相も基準年とした2005年でなく、90年を基準年にしたのかと問われた。前田氏の答えは、「それだけの切実感、現実感がなかった」というものだった。意欲は評価するにしても、民主党の無責任が目立った研究会だったと言わざるを得ないのが、なんとも残念だ。

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「 外相会談を断られた鳩山政権 日米関係の危機を直視せよ

『週刊ダイヤモンド』   2009年11月7日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 812



日米関係が最悪である。10月20日に来日したゲーツ米国防長官は、岡田克也外相との会談で、沖縄の普天間飛行場を沖縄本島北部の名護市に移設する問題について「現行案が唯一、実現可能な案だ」「オバマ大統領来日の前に結論を出してほしい」と述べた。

普天間の返還と移転は1996年に日本政府が要請したにもかかわらず、その合意を実行に移すことが出来ず、13年が過ぎた。合意から10年後の3年前、あらためて日米政府間で確認し合ったのが現行案。米国側が合意を守るべきだと言うのはもっともだ。

沖縄県知事の仲井眞弘多氏は、滑走路を少し沖合に移動してくれれば、現行案で受け入れると言っている。「県外移転をせよ」とは、一応口にするが、現実的に困難だと認識しているからである。また、沖縄県の経済界には、名護市への移転に向けての流れがすでに形成されてきた。

確かに、民主党の公約は、普天間の移転先は海外、もしくは県外であるべきだというものだ。鳩山由紀夫首相は、公約にこだわり、今、「最低でも」県外移転だと繰り返す。岡田外相は、県外移転は口にしなくなったが、名護市ではなく嘉手納基地に統合すべきだと主張する。

だが、嘉手納移転には、地元の嘉手納町と米軍の双方が強い拒否反応を示している。主張を変える気配がない岡田外相は、いったいどのようにして嘉手納基地との統合を実現しようというのだろうか。

民主党首脳が迷走するなか、担当大臣の北澤俊美防衛相が興味深い主張を展開した。現行案は民主党の公約に反するものではないというのだ。北澤防衛相は、2006年の在日米軍再編計画で沖縄の米海兵隊の一部をグアムへ移転すること、および普天間飛行場のKC130空中給油機を山口県の岩国基地に移転することが盛り込まれており、これは民主党の公約の「国外移転、県外移転」に相当するというのだ。

舌を巻く現実的な解釈である。米国が普天間移設が実現しなければ海兵隊の一部引き揚げも白紙に戻すとまで言ってきている今、北澤防衛相の解釈は、政治家としての知恵の働かせどころだった。

民主党は多くのことをマニフェストに盛り込んでいるが、それらは恐ろしいほどに現実無視の視点でつくられている。実際に政権を手にして、日本国の運営をしていくとき、現状把握の出来ている政治家なら、中国の脅威の前に日本の安全を担保する枠組みとしての日米同盟の重要性を痛感するはずだ。だが、鳩山、岡田両氏には、現実を見て理解する能力が欠けている。だからこそ、両氏はただちに、「必ずしもそのようには思わない」「論理的にちょっと苦しい」とおのおの述べ、北澤防衛相の解釈を否定した。

鳩山政権は来年1月、インド洋での給油、給水活動の中止も決めている。ヴァンダービルト大学教授で米国における最も親日的な人物の一人、ジム・アワー氏が述べる。

「米国はすでに日本からの給油も給水も受けていませんから、直接的な影響は少ないでしょう。しかし、30ヵ国近い国々が協力しているアフガンでのテロとの戦いから、日本がすべて引くことは、むしろ日本にとって深刻な意味を持つのではないでしょうか」

ゲーツ国防長官は、外相防衛相主催の晩餐会も自衛隊の栄誉礼を受けることも拒否した。岡田外相が申し込んだクリントン国務長官との会談も断られた。オバマ大統領の来月の訪日は、日程が大幅に短縮された。日米関係はまさに危機である。

中国の脅威の前に、日米同盟をより必要とする国は、米国よりも日本である。鳩山政権は厳しい国際情勢を認識し、その対米外交と安全保障政策を根本から見直すことだ。そのうえで、日本の防衛力の整備に努めよ。

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「 温室効果ガス25%削減で国民はいくら負担するのか 」

『週刊ダイヤモンド』   2009年10月3日号
新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 807





日本時間の9月22日夜、鳩山由紀夫首相はニューヨークの国連本部で開かれた国連気候変動首脳会合の開会式で演説した。2020年までに温室効果ガスを1990年比で25%削減するという中期目標を表明した。


目標値達成は、全ての主要国の参加による意欲的な目標の合意が前提となるとの条件をつけたうえで、「鳩山イニシアチブ」として、途上国や島嶼国に対する無償の資金・技術援助計画もうたい上げた。

国際社会への“華々しい”デビューを果たした後、鳩山首相は高揚した表情で「なかなかおもしろかった」「あれだけお誓いしたのだから、しっかりやらなければならない」と語ったが、私は25%という数字の一人歩きを強く危惧するものだ。

国際公約になった25%削減策に、国民は高い支持を与えている。メディアの報じ方は、テレビ朝日の「報道ステーション」のように、前のめりといってよい熱心な賛成派から、日本のひとり相撲になるべきでないという意見まで、大別すると二分される。それにしても、90年比25%の削減は05年比換算で30%である。どの国も打ち出してはいない大胆な目標だ。

同案をまとめた福山哲郎外務副大臣は、副大臣就任前の取材で、「画期的な目標を掲げ、21世紀の環境政策をリードすることが、日本の活路を開く」と熱心に語った。

確かにそのとおりだ。それも国民、企業の理解と支持があってこそ可能だ。

だが、前代未聞のこの削減幅がどれほどの負担を伴うものかについて、民主党はほとんど説明していない。少なくとも麻生太郎前首相は、自民・公明案の05年比15%の削減を実現するには、62兆円の投資が必要だという見通しや、一世帯当たり76,000円の負担増になるなど、必要最小限のことは説明した。民主党は、マニフェストには25%削減と書き込んだが、25%の削減を国内で行なうのか国外から排出枠を購入するのか、その場合、税で負担するのか企業負担とするのかも明らかにしていない。

鳩山首相の大胆な「お誓い」とは対照的に、米中両国はいっさいの数字を口にしなかった。それどころか、中国は先進国の責任を強調した。地球全体で排出する二酸化炭素の約45%を占める米中両国はさぞかし、日本を与しやすしと見たであろう。

地球全体の4%しか排出していない日本は、高度の省エネ技術をつくり出し、実践してきた。日本がもう一%削減するのにかかる費用と、米国や中国が一%削減するのに必要な費用は同じではない。高い水準を達した国がさらに高い水準を目指すには、幾何学的にコストが上昇するのは、常識である。

鳩山首相にはぜひ、この限界削減費用、追加的に一単位削減するための費用に留意してほしい。東京大学先端科学技術センター特任教授の山口光恒氏は「ECOマネジメント」の中で、これを「それまでの時点でそれより削減費用が安い対策や技術は全て導入しているとの前提に立ったうえで、さらに追加的に温室効果ガスを一単位削減するための費用」と説明している。

麻生前首相は、当初、05年比で14%削減を考えていたが、1%積み上げて15%にした。1%を加えただけで、さらに10兆円のコストがかかると説明した。麻生案を基準にしても、日本と欧米の限界削減費用は3対1、つまり、日本で一単位削るには欧米の3倍のコストがかかることが明らかにされている。中国、インド、ロシアなどと比べれば、さらに差は開く。

麻生案よりさらに高い数値を目指す鳩山案実現にかかる費用については、多くの研究機関がシミュレーションの範囲を超えていると断ずる。こうしたことについて、民主党は国民と経済界に、きちんと説明しなければならないだろう。

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「 特集 陥落目前 『東シナ海ガス田』に迫る『中国の脅威』 」

『週刊新潮』 2009年9月24日号
日本ルネッサンス 拡大版 第379回
「国境」が危ない」 【前編】



9月1日、日本最西端の与那国島を訪れた。九州南端から500キロ離れた沖縄本島、そこからさらに500キロの与那国島はまさに日本の西の国境の島だ。


島の東端に阿尼花(あだにばな)の海岸がある。小高い場所の見晴台から、碧い海とのどかな牧場が見渡せる。

阿陀尼花の海岸で、牧場主で与那国防衛協会副会長の糸数健一氏(56)に話を聞くと、氏が思いがけないことを言った。


「日が暮れる頃、中国の調査船が岸スレスレに近づいてくるのです。日中は沖合いにいますが、夕方になると接近してきます」


それは領海侵犯ではないか。そんなことがあるのか。驚いて問うと、糸数氏はさらに力を込めて語った。


「暫く前には3日連続で接近してきました。上陸しようと思えば、すぐに出来るところまで来た。島の人口は1,600人とわずかです。特にこの東の端にはパラパラといるだけです。夜間に上陸しても誰も気づきはしません。私は中国は海底の地形や海流だけではなく、島々に上陸して各種施設まで、調べている可能性があると思いますよ」


驚愕すべき話だ。それにしても糸数氏はどのようにして中国船を見つけたのか。


「私は毎日、牧場の見回りに来て、牛や馬の世話をします。仕事が終わったら牧場の周りをマラソンするのが日課です。そしてこの海岸から海を見ます。その繰り返しの中で中国の調査船を見つけたのです」


たしかに中国の調査船なのか。太陽と潮風で、逞しく焼けた氏が笑った。


「私は島生れです。高校進学で島を離れ、東京理科大に学び、気象庁に就職しました。何年間も気象観測船や海上保安庁の船に乗っていました。調査船かどうか、大体の調査内容も推測できます」


氏は、昨年12月に、中国の武装調査船2隻が尖閣諸島周辺の日本領海を侵したことが大きく報道されたことに触れ、こう語った。

「与那国でも、その他の島でも、同じようなことは頻繁に起きていると考えた方がいい。ただの牧場主の私が、これほど度々中国船を間近で目撃しているのです。中国の船がここにだけ来て、他の島にいかないことはないでしょう」


氏は、海保も海自もこうしたことに気づいていると感じている。


「しかし、海保も海自も、どうにも手が回らないんじゃないでしょうか。見ていると本当に手薄ですから」


日本の南西の海には、有人の島だけでも190ある。その中で自衛隊の部隊が配置されているのは沖縄本島と、その北東にある奄美大島、沖永良部島、沖縄本島の西の久米島、南西にある宮古島の5島だけだ。ただ、久米、宮古両島にはレーダーサイトと小規模の警戒隊が駐屯するのみだ。


つまり、沖縄本島から与那国島の長径500~600キロの空海域には、外敵の侵入や軍事的脅威に対抗する自衛力は実体として存在しないのだ。領海を侵犯されても、警告、排除はおろか、侵犯の事実にさえ気づきようのない安全保障上の空白が存在する。


そうしたなか、いま、東シナ海で中国が猛烈な動きを展開中だ。東シナ海は日中の中間線で分けるべきだとする日本に対して、中国は、東シナ海は中国の大陸棚の延長線上にあり、沖縄トラフまですべて中国の海だと主張する。日本固有の領土である尖閣諸島も中国の領土だとして譲らない。


日中係争の海で、中国はこの夏、突然、活動を開始し、驚くべきスピードで開発を進めた。民主党衆院議員で安全保障問題に詳しい長島昭久氏が語る。


「たとえば、南海2号と呼ばれる井戸があります。中間線から中国側に入った八角亭の北、10キロのところです。ここに彼らは、あっという間に試掘用のオイルリグを建てました。


日本の海上自衛隊の哨戒機が資材を曳航する中国船を最初に確認したのが8月15日でした。20日には、海のどまん中にオイルリグが建てられ、施設は試掘可能なところまで完成しました。翌21日には早くも掘削が始まっています。掘削の開始は、海水の濁りですぐにわかります」


資材運搬の確認からわずか6日後に掘削が始まったのだ。南海2号の海底に天然ガス田があると仮定して、中間線を超えて日本側につながっているかは不明である。したがって、同開発に日本が抗議する理由は、いまは見つからない。



「人のものも俺のもの」


中国の活動はそれだけではない、中間線をまたいで日本側にガス田が広がっていることが確認されている白樺(中国名・春暁)で、極めて重大な事態が起きていると、長島氏が警告する。日本は完全にしてやられたと言うのである。


白樺については、昨年6月、日中両政府が共同開発することで合意した。開発の具体策について交換公文書を早期に作成することも合意した。だが、中国側は過去1年以上、交換公文書作成の交渉に一切応じてこなかった。そして、今年夏、事態が急変した。長島氏が語る。


「南海2号で掘削が始まった8月21日、白樺にも掘削実施に必要な3つの施設が出来上がりました。技術者や労働者のための住居棟、高い鉄塔を備えた掘削棟、掘り上げた資源を仕分けする処理施設です」


右の3施設が完成すれば、中国はいつでも掘削出来る。日中の合意は完全に破棄されかねない。それにしても、日本政府はこの1年余り、一体なにをしていたのかと、長島氏は憤る。外務省担当者は、昨年6月に共同開発が合意されると、中国で、日本に譲りすぎたとの激しい反発が起き、さまざまな要因を考慮せざるを得なかったと説明する。


「武大偉外務次官がわざわざ記者会見しなければならなかったほど、強い反発でした。反発はなぜ起きたのか。中国国民は、東シナ海の中間線の中国側はすべて中国の海である、そこには日本の侵入を許さないと考えます。交渉すべき海域は、中間線と、中国側の主張する200海里の線の間の海域だけだと考えるのです。日中の共同開発は、中間線から日本側においてのみ許されるのであり、本当の中間線は、元々日本が主張する東シナ海の中間線でなく、その中間線と沖縄トラフまでの海を二分する線だと考えるわけです」


平たくいえば、東シナ海の中国側半分は中国の海だから絶対に譲らない。残り半分の日本側の東シナ海なら、それを二分する線に沿って、共同開発を受け入れてもよいという、「俺のものは俺のもの、人のものも俺のもの」という考えだ。


このような中国世論への配慮ゆえに日本の主張ができないとしたら、それは過度の配慮というものだ。日本の国益を反映しているとは到底、言えない。このような状況が、1年以上続き、7月10日、中国船が白樺付近で確認されたのだ。


先述したように中国はいつでも白樺での掘削を始められる施設を完成させた。だが、白樺は試掘のための南海2号とは異なる。単に掘るだけではなく、大量の砂や海水とともに掘り上げる天然ガスを、ここで処理しなければならない。精製した天然ガスをパイプで送り出すには大規模な処理工場が必要で、その大規模施設を建設したのである。南海2号の完成には5日間、白樺は40日。明らかに中国は、周到な準備の末に、今を最大の好機とみて断固として行動した。では、日本の国益を脅かす具体的動きが続いたこの40日間、日本政府はなにをしていたのか。


「最初の動きを、日本政府は7月10日に海自のP3C哨戒機が撮影した写真で確認、すぐに中国政府に抗議しました」と、担当者。


藪中三十二外務次官は13日の記者会見で、中国側が「ガス田の維持、管理と説明してきている。維持管理が必要というなら分かる」と述べた。


殆んど危機感が感じられない説明だ。この時点でさえ、現場ではとんでもないことが起きていた。




なす術もなく


その片鱗を「読売」が7月29日の朝刊で報じている。編集委員の勝股秀通氏の「国境防衛鈍い政府」の記事である。記事中の写真には白樺ガス田に横づけされた大型のクレーン船と大量の資材が写っている。白樺に集結した3隻の船は、こういう大型船だったわけだ。だが、藪中次官はこうした「中国船」の実態を説明していない。


現場では7月13日までに、白樺のプラットフォーム上に、従来からあった白い色の住居棟に加えて、新たな5階建の住居棟が完成していたのだ。彼らはたった2日間で、数百人を収容する住居棟を作り上げた。


外務省はどう対処したか。「朝日」、「毎日」は7月22日付で各々、白樺周辺から中国船が撤収し、掘削は確認できなかったとの短い記事を外務省情報として報じた。つまり、外務省は、中国船の集結は維持管理目的ではなく、開発工事のためだったことを知りながら、「撤収」「掘削はなし」と、伝えたことになる。


先の「読売」の記事は右の報道の1週間後だったが、これは海上自衛隊経由の情報だった。


この間、中曽根弘文外相が7月22日、タイのプーケットで楊潔篪(ヨウケッチ)外相に「強い懸念」を表明した。だが、外務省は基本的に中国に口頭で抗議し、「維持、管理だ」と言われ、「納得できない」と反論し、「維持管理だ」と再主張され、なす術もなく、8月21日に至ったわけだ。

なぜ、この間、国益を損う深刻な事態を与野党の共通認識として、対策を講じなかったのか。なぜ、メディアにも国民にも知らせなかったのか。

関係者が語った。

「政府は日本国民が事実を知ったとき、強い中国批判が巻き起こることを恐れました。万が一、中国側が開発を中止すれば、恰も、日本の反中世論に屈したかのように見える。すると、逆に中国世論がおさまらない。中国政府は、ますます、開発を中止できなくなる。だから、日本国民に知らせずに、『冷静に』交渉したいと考えたと思います」

この決定は、外務次官らが官邸に上げ、首相、官房長官、外相、経産相の4人が了承したという。日本政府首脳らによる会議でも、中国の立場に配慮し、日本の主張を展開できず、国益が損われていった。
結果として、中国は完全な既成事実をつくり、日本は断崖絶壁に立たされた。政治の責任は極めて重い。

日本政府は中国側に、万が一「レッドラインを越えたら」、つまり、掘削を始めたら、日本は「断固たる対抗措置」を「必ず」取ると通告済みだ。

問題は、自公政権の対中外交のこの失敗を托される民主党政権である。絶体絶命の状況を、はたして民主党政権が打開していけるのか。日本の危機が続く。

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プロフィール

櫻井よしこ Yoshiko Sakurai

職歴

1971~74
クリスチャンサイエンスモニター紙
東京支局勤務
1975~77
アジア新聞財団
DEPTHNEWS  記者
1978~82
アジア新聞財団
DEPTHNEWS  東京支局長
1980~96
TVニュースキャスター
1980~現在
ジャーナリスト

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