「 憲法改正への道筋がついただけに惜しい国民投票法案が持つ2つの欠陥 」

『週刊ダイヤモンド』     2007年3月31日号

新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 684







憲法改正の手続きを定める国民投票法案が、4月中旬に衆議院を通過する見通しとなった。安倍晋三首相が政権の最大の課題とする憲法改正への道筋が、これで一応、つくことになる。



与党は民主党との調整を断念したと報じられたが、民主党内は複雑だ。同党には、党の意見はかなり与党案に反映されたとの評価があり、七割が与党に協力して法案を通すべきだと考えているというのだ。にもかかわらず、党執行部が反対のための反対に走るとしたら、間違いだ。



そんななか、安倍政権は数多(あまた)の批判を受けながらも、やるべきことをやっている。日本が1952(昭和27)年4月28日に独立を回復した直後に片づけておかなければならなかった課題を、これでまた一つこなすことになる。



とはいえ、与党修正案は公明党および民主党の要求を入れた結果、いくつか重要な欠陥を持つに至った。第一は、国家公務員法や地方公務員法の定める「公務員の政治的行為の制限」が適用除外となり、国民投票に関して運動を展開することが可能になっていることだ。



教育現場を取材して痛感するのは、いまだに日本教職員組合(日教組)の影響が非常に強いことだ。組織率が低下しているとはいえ、日教組の教師たちは運動に熱心だ。会議では必ず発言する。声は大きく物腰は強硬だ。他方、非組合員の教師は、数は多くても摩擦を好まない。理論武装もできてはいない。結果として、教職員会議は日教組の教師たちが主導する。



こうした事柄から容易に想像出来るのは、全日本自治団体労働組合などが公務員をまとめ、憲法改正反対運動の先頭に立つことだ。公務員が個人として憲法改正にどんな考えを持とうとも自由である。だが、政治的中立性が要求される公務員に、国民投票法に限って、その中立性を放棄させるのはおかしい。これは憲法改正派、護憲派のどちらにも、公正な結果をもたらすとは思えない。行政の中立性を保つためにも、この点はぜひ再考すべきである。



第二の欠陥は、マスコミ報道について規制を設けなかったことだ。公職選挙法によって、選挙報道には公正さ、中立性が求められる。マスメディアは各候補者を平等に扱うなど、自ら律しなければならない。にもかかわらず、国家の根幹である憲法改正に関する国民投票についてメディア報道の規制を設けないのはおかしい。選挙も重要だが、憲法に関する国民投票はなお重要だ。一律にメディア規制を否定するのでなく、公正な報道を促す手段として、規制は設けるべきだ。



日本はなぜ、斯(か)くも長きにわたって憲法改正をしてこなかったのか。これは、事あるごとに、日本の保守勢力を批判する「ニューヨーク・タイムズ」紙などでさえも投げかける問いだ。それほど、日本人は長きにわたって改憲の時機を逸してきたということだ。



憲法の専門家、駒澤大学の西修教授は、戦後40年の時点で米国を訪れ、日本国憲法作成にかかわった人びとを取材した。会った人物は10人以上。全員が「まだあの憲法を守っているのか」と驚いたという。彼らの反応に、西氏のほうが驚いた。彼らは、自分たちがつくった日本国憲法は、占領終了後に当然書き換えられると考えていたのだ。だが、さらに驚いたのは、憲法改正の手続きについて西氏がその規定の厳しさを説明したときだった。彼らの多くが、国民投票で過半数、国会の3分の2以上の賛成という極めて高い改憲のハードルについて、全く記憶していなかったのだ。なんと無責任なことだろうか。



だからこそ、「まだあの憲法か」と20年以上も前に呆れられた米国由来の憲法に縛られることなく、日本人の憲法を一日も早くつくるべきなのだ。そのために、民主党は党内意見に耳を傾け、国民投票法制定に協力せよ。安倍首相は法案の欠陥修正に力を入れよ。

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プロフィール

櫻井よしこ Yoshiko Sakurai

職歴

1971~74
クリスチャンサイエンスモニター紙
東京支局勤務
1975~77
アジア新聞財団
DEPTHNEWS  記者
1978~82
アジア新聞財団
DEPTHNEWS  東京支局長
1980~96
TVニュースキャスター
1980~現在
ジャーナリスト

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